K−SPACEについて
この用語を聞くだけでジンマシンが出そうになる人は多いと思います。確かにK−SPACEの概念を完全に理解するためには、MR現象の基礎から、周
波数・位相エンコーディングや2DFT(2次元フーリエ変換法)に至るまでの十分な理解を必要とするために、最初から投げ出してしまっている人が多いだけ
だと私は思います。技術者でもあるまいし、医療従事者がK−SPACEなんぞ理解してなくても何も困ることはない、と言い切る方もいますけど、やはり自分
が知らないことがあるというのは悔しいですよね。
ちなみにK−SPACEの”K”というのは何の単語の略でもありません。電子軌道の”K”殻から取ったのではないかと言われてますが、空間周波数の数え
方に由来するのが真相のようです(荒木先生著「クイズMRI」に詳しく書いてあります)。
コンベンショナルSE法などの撮影においては、エコーは位相エンコードステップごとに得られますが、これを縦軸(位相エンコーディング)方向に重
ねていったデータの集合がK−SPACEです。横軸はエコーのサンプリング時間になります。
K−SPACEの原点は、位相エンコーディング方向(縦軸)では位相シフトが0であり、エコーの時間軸(横軸)では信号のピーク値(リフェーズ部分と
ディフェーズ部分の切り替わり)になっています。縦軸で見れば位相シフトが大きいほど磁場の不均一が起こるため、K−SPACEの中心部はデータ量が相対
的に大きくなり、結果的に画像のコントラストに寄与し、外側は画像の空間分解能に寄与するということが起こるわけです。
実際にMR画像を作成するときは、2回のフーリエ変換が必要になります。エコー信号には周波数エンコーディングにおいて負荷された様々な周波数の信号を
含んでいるわけで、横軸方向に対してフーリエ変換を行うと、傾斜磁場に比例したスペクトラムが得られます。この段階では1方向のデータしか得られないの
で、次に位相エンコーディング方向(縦軸方向)についてフーリエ変換を行います。1回当たりでの位相エンコーディングでは、MR画像で対応する位相方向の
ピクセルには、位相エンコーディングステップ数に応じたそれぞれ異なった位相シフトが加味されているので、とてつもない数の変数(つまり位相エンコーディ
ングステップ数)の方程式を解くようにしてピクセル値を割り出していきます。つまりK−SPACEの1点のデータがMR画像のピクセル値の1対1で対応し
ているわけではなく、K−SPACEの1点のデータは場合によっては画像すべてのピクセル値を割り出すのに重要ということも起こりえますし、反対にMR画
像の任意の1点のピクセル値を割り出すのにK−SPACE全部のデータが必要ということもあります。
ハーフフーリエ法(いわゆるHASTEやフラクショナルNEX)においてはK−SPACEの位相対象共益(エルミートシンメトリー)という原理が利用さ
れ、これは半分の位相エンコーディングステップのみのサンプリングで、残りは計算によりMRI画像を作成する技術です。同じようなものにハーフエコー法と
いってディフェーズ部分のサンプリングのみで画像を作成する方法もあります(FSPGRなど非常に短いTRを利用するときに用いられます)。理論上K−
SPACEのデータは原点を挟んで鏡像対象になっていまして、エコー信号のディフェーズ部分がリフェーズ部分とピークを挟んで鏡像対象であることと、同じ
位相エンコーディングステップにおいては、逆位相のエンコーディングによって得られたエコー信号は正位相のそれと鏡像対象であることにより、結果的にK−
SPACE上のデータは原点を挟んで鏡像対象となります(実際には磁場の不均一などの理由によって正確な鏡像対象にはならないため、60%以上のサンプリ
ングを行っています)。