Copyright Yoshihiro IDE (e-mail:y_ide@jsdi.or.jp) 最終更新日:1996/NOV/26
1996年11月25日、カシマサッカースタジアム整備検討委員会の第4回委員会が開催された。
席上、改築した場合と新築した場合のメリット・デメリットが具体的に検討された。
その検討資料を下記のように紹介する。
委員会としては、新築の前提条件は鹿嶋市が現施設の有償払い下げに同意することであるとの意見が大勢を占めた。 |
改修・新設の比較検討上の課題と検討結果
<改修>
- 選手、観客にとって満足のいく施設になるか。
- 大会開催に問題はないか。
- 構造上の制約は何か。
- デザイン上の制約は何か。
- 工事施工上の制約はあるか。
- 工事施工中のJリーグ開催は安全か。
- フィールドの利活用はサッカー専用か。
- 照明灯の灯台への影響対策はどうする。
- 改修は、結果的に二重投資となり、無駄が出るのではないか。
- スタジアム駐車場から外へ出るまでの時間短縮は可能か。
- スタンドが高すぎて危険ではないか。
- トイレの数が少ないが対応できるのか。
- ワールドカッブ以降の施設管理運営費は収入とバランスとれるのか。
- 県民利用拡大のため、多目的活用策がとれるのか。
- 天然芝の養生期間の関係で利用が制限されるが、技術的に改善し利用期間の拡大ができないか。
<新設>
- 地域振興上、2つのスタジアムができることによる相乗効果が出るか。
- 新設の場合の立地場所は鹿嶋になるのか。
- ハイグレードなスタジアムが2つできても、県民の気軽な利活用にはつながらないのでは。
- 新設が改修にまさつている点は
- 新設の場合は、幅広い県民層の利活用に対応できるようフィールド形態を陸上兼用などの多目的にすべきではないか。
- 2つのスタジアムの有効活用方策は
- 同一地域で、県が2つのスタジアムを管理をすることは妥当か。
- 建設コストは改修に比較して高くなるがどうする。
- 地元鹿嶋市が現スタジアムの有償払い下げに応じられない場合でも、新設するのか。
- 建設地は検討しないとのことだが、建設可能地はあるのか。用地買収等から初めてW杯前年(平成13年春)までに間に合うのか。
- 新設により、新たなインフラ整備の必要が出るのではないか。間に合うのか。
<改装>
1.選手、観客にとって満足のいく施設になるか。
(検討)
- 改修施設内容の概要(基本計画から)
- セルシステム採用(自動給排水装置)のサッカー専用フィールド
- 全席独立席
- 2層式観客席、大型映像装置による臨場感配慮
- ハンデイキャップのある人への対応(スロープ、エレベータ、トイレ等)
- 屋根付き観客席(全体の2/3)
- セルシステム採用フィールド、全席独立席、など両者から好評である現スタジアムの施設を基本的に踏襲し、さらにハンディキャップのある人への対応や、臨場感を高めるための設計等に配慮した計画であり、充分満足のいく施設となると考えられる。
2.大会開催に問題はないか。
(検討)
以下の諸点につき対策が講じられれば問題ないと考えられる。
- 交通体系の整備、宿泊など関連インフラ整備。
- 観客の誘導、警備対策などに関し、従来のJリーグ開催時と異なる点は今後関係機関と協議する必要がある。
- 適宜、交通情報を流すなど、周辺交通の混雑解消に万全を期すこと。
3.構造上の制約は何か。
<検討>
- 敷地確保上の制約:国道51号線側(メインスタンド)の拡大に制約あり。敷地面積約9ha
◎若干の用地確保が必要となるが、全面的に新たな用地手当の必要はない。)
- 2層式勾配:敷地確保の制約と見やすさ(臨場感)追求のため2層目が35度。
- 国立競技場:27度
- 鳥栖スタジアム:38度
- 東京ドーム:33度
- 現スタジアム:29度
- フィールド及び1階席は改修対象外のため、現在のまま使用。2層目は観客席の勾配角が高くなるが、東京ドーム2階席と同程度であり、安全対策を講じれば問題ないと考えられる。
- スタジアムの屋根高:40m(現施設20m)になるが、新設案でも35m〜40m程度となり問題ないと考えられる。
◎2層式により、試合時の観客数により、1層目と2層目の使い分けが可能であり、警備範囲を特定するなど効率的な管理運営が図れる。観客動線を明確にできるといったメリットもある。
4.デザイン上の制約があるのか。変わりばえしないのではないか。
→アピール性や地域シンボル性に不足が出ないか
(検討)
- 現施設の形状が基本デザインとなるため(フィールド、観客席は現状のまま)、他の自治体での建設計画に比べデザイン上の自由度は低い。
- 他の自治体で計画中のスタジアムは、全て円形スタジアムである。本県だけが四角形スタジアムであり、現在の特徴をより強調できる。
- 他の自治体に比べデザイン的に自由度はでないが、スタジアムの規模拡大(収容人員で約3倍)を伴い、アピール性、シンボル性は他に比べ劣らない。
5.工事施工上の制約はあるのか。
・工事中のJリーグへの影響はどの程度でるか。
・国道51号バイパスの供用開始時期によっては、工事車両等の出入りが支障となるのではないか。
(検討)
@W杯開催に間に合わせる必要があるため、前年のプレ大会を想定して、平成12年度までの完成を目途とする必要がある。
AJリーグ試合を継続しながらの工事を前提とする場合、施工上の制約が出ると想定される。
- フィールド側からの工事不可。
- 観客席工事
- Jリーグ対応のための安全措置等。
B工事中、Jリーグへの影響は出るが、最小限に抑える措置を講じる必要がある。
- 観客席改修は、ブロックに分けて行う。
- 内装工事等による、選手、関係者等の部屋、動線等の一時変更等
※ただし、Jリーグのオフシーズンにかけて工事を実施する。
C51号バイパスの供用開始時期については、関係機関と協議する必要がある。
<神奈川県等々力競技場の例>
- 既存施設の改修(1万人を2万5千人へ)
- 総事業費約110億円
- Jリーグを開催しながらの工事(H5,8〜H8,3 期間2年7ヶ月)
- 工事は、Jリーグオフシーズンの4ヶ月間(12月〜3月)に集中して実施。
- Jリーグ開催中は、観客席に影響ない範囲で工事実施。
- 工事期間中は、警察、消防等、関係機関と綿密な調整を図った。
6.工事施工中のJリーグ開催は安全か。
<検討>
通常に比較して、選手、観客に影響がでるので、等々力競技場の例等を参考に安全対策を講じる必要がある。
- 通路等の安全確保。
- 誘導、注意板などの設置。
- トイレ等の確保。
7.フィールドの利活用はサッカー専用か。
(多目的にできないか)
(検討)
@敷地の制約上、フィールドの拡張はできない。サッカー専用場である。
Aスタジアム内の施設について多目的性を持たせることは検討できる。
(メインスタンド下を除く各スタンド下部空間の利用によるフィットネス、リハビリ、スポーツ店等)
8.照明灯の灯台への影響対策はどうする。
(検討)
以前からの懸案事項であり、照明の屋根付け等を検討する。
9.改修は結果的に二重投資になるのではないか。
(検討)
- 現施設は、築後5年(H5〜H9)での改修であるが、規模拡大により、サッカーを観ることによる一般県民のサッカー参加の機会が増大する。
- 4万人の人々が一堂に集うスタジアムを核とし、一層のスポーツ振興と鹿嶋のサッカーを核としたまちづくりの促進につながる。
- 改修は、一部解体撤去、工事期間中のJリーグ開催に支障が出ない工事手法の採用などで特別な費用がかかる(20億〜25億)が、新設よりは安くできる。
10.スタジアム駐車場から外へ出るまでの時間短縮は可能か。
<検討>
- 周辺道路整備で対策を講じる。新たな駐車場整備については、配置にも留意する。
- 国道51号バイパス完成時に併せ、出入り口の増設を検討する必要がある。
11.スタンドが高すぎ危険ではないか。
(検討)
- 観客席勾配は二層目が35度程度になるが、東京ドーム並である。臨場感は高まる。転落防止等の安全対策を講じれば問題ないと考えられる。
- 観客席の最上部の高さは、約35mである。国立競技場の約30m(バックスタンド)と同程度であり、風による影響も少ないと考えられる。
12.トイレの数が少ないが対応できるか。
(検討)
現在202個(男女あわせて)を、778個に増設する計画である。
観客席割合で、現在74人/個(15,000人換算)を51人/個(40,000人換算)に充実する。
他施設の例
- 東京ドーム616個、91人/個(56,000人換算)
13.ワールドカッブ以降の施設管理運営費は収入とバランスがとれるか。
(検討)
アントラーズの使用を前提にすれば、収支バランスはとれると考える。
観客数が現在の約3倍になる(15,000→40,000)ことに比例して単純に管理費が今の3倍にはならないことから収支バランスはとれると考える。
<アントラーズの現況>
- チケット購入倍率平均10倍
- 年間指定席2,000席の購入倍率約10倍
以上の状況から、アントラーズ側も観客席増に対応できる興行は可能と見込んでいる
14.県民利用拡大のため、多目的活用策がとれるか。
利用者の利便性を確保できるか。(利用時間、利用目的等に柔軟対応できるか)
(検討)
- 多目的活用策としては、観客席を活かした野外コンサート等のイベント開催。スタンド下部の空間を活用し、インドア施設(フィットネス、スポーツ店、など)としての活用が可能と考えられる。
- 利用者の利便性確保については、管理運営の見直しなどにより、対応可能と考える。
- 利用時間の延長:現在午前9時〜午後10時→早朝からの活用可能へ
15.フィールドの利用期間の拡大
天然芝の養生期間の関係で利用が制限されるが、技術的に改善し利用期間の拡大ができないか。
(検討)
- 年間100〜110日は養生期間で使用不可。現時点での技術では改善不可と思料される。(その他参考事項:週3回使用が限度、年間使用可能日数80日程度)
- 良好な芝状態の中で、プレーするためにはやむを得ない措置と考える。
- 利用期間の拡大は難しいが、フィールドの多目的活用策については、芝を荒らさない方式(芝の上にパレットを敷くなど)をとることにより可能と考えられる。
<新設>
1.地域振興上2つのスタジアムができることによる相乗効果が出るか。
(鹿嶋のサッカーを核としたまちづくりの促進へのプラス影響が出るか)
(検討)
- 近距離に2つあることにより、スタジアムの使い分けが可能となり、より幅広い利活用策が打ち出せる。
- 新スタジアムは、プロ使用、大規模大会中心
- 現スタジアムは、アマチュア使用、中規模大会中心
- 県民の利用機会の増大が図れる。
- 2つのスタジアムの設置により、サッカーを核としたまちづくりの一層の促進が図れる。
2.新設の場合の立地場所は鹿嶋になるのか。
- 同一地域にグレードの高いスタジアムを2つ造ることにどう理由を付けるか。
- ワールドカップ対応とはいえ、県民の理解が得られるか。
(検討)
- ワールドカップ対応の施設整備が前提となり、ワールドカップ開催候補地は鹿嶋と決定している。これは整備方針が新設となった場合でも変わらない。
- グレードの高い施設は、拠点的に整備するのが妥当であり、地域特性を活かした地域振興の実現を図る上からも、現在サッカーを核としたまちづくりを推進している鹿嶋での整備は妥当である。
- 平成17年度(2005年)を目標年度とした茨城県長期総合計画において、上記の施策展開の位置づけがなされている。
- アントラーズの本拠地でもあり、ワールドカップ以降もプロチームのスタジアム使用により、人々が集う拠点としての地位は変わらない。
- 2つのスタジアムによる利用機会の拡大が可能。
- 利活用しやすいように、道路等のアクセス環境等を整備することにより県内各所からの利用は可能。
- ハイグレードなスタジアムは、地域アピール性、シンボル性を持つ点で、大きな意味があり、今後のサッカー振興と地域のサッカー環境の整備促進にインパクトを持つと考えられる。
3.ハイグレードなスタジアムが2つできても、県民の気軽な利活用にはつながらないのでは。
<検討>
- 地域住民の気軽な利活用のためには、野球場と同じく市町村レベルでのサッカー場整備が課題となる。(グレードは高くなくともサッカー環境を整えることが大事)
- 2つのスタジアムが整備されることにより、プレーする者、観戦する者双万にとって利用機会の拡大が図れる。
4.新設が改修にまさっている点は。
・構造上・デザイン上・工事上・施設機能上
(検討)
- デザイン、アピール性、シンボル性などの点で自由な設計が可能(2つあることで相乗効果もでる)
- 安全性、快適性を充分追求した最新構造設計の自由度が高い。
- 施設内の多目的使用についても、新たな機能を付加する自由度が高い(トレーニング室、防災センター、備蓄倉庫など)
- フィールド内の多目的利用も可能
- 工事施工も、Jリーグ試合開催に影響なし。
5.多目的化・終了後の改装
- 新設の場合は、幅広い県民層の利活用に対応できるようフィールド形態を陸上兼用などの多目的にすべきではないか。
- サッカー専用の企画としておき、ワールドカップ終了後に兼用に改造できないか。
(検討)
- 敷地が確保できれば、陸上兼用などのフィールドの多目的活用施設にできる。
- 新設では最低10ha程度が必要。
- ワールドカップ開催対応、サッカーを観るという観点からはフィールドはサッカー専用がアピール性が高い。
- スポーツ施設として、幅広い県民の利活用と一層のスポーツ振興を図る上では、フィールドの兼用化(陸上競技兼用等)も検討に値する。
- ワールドカップ終了以降、フィールド改修により専用から兼用に変更は可能と考えられる。
6.2つのスタジアムの有効活用方策は
(検討)
- 新スタジアムは、アントラーズホームグランド、Jリーグ、大規模大会中心。
- 現スタジアムは、アマチュア、地域住民開放型。(サッカースクール、指導者育成、中規模大会等)に区分して活用する方法などが考えられる。
7.同一地域で、県が2つのスタジアムを管理をすることは妥当か。
- 管理費が2倍になるのではないか。
- 2つのスタジアムそれぞれの収支バランスはとれるのか
(検討)
- ワールドカップ開催等の前提条件から、鹿嶋に2つのスタジアムが整備される妥当性はあっても、県管理のスタジアムは同一地域に2つ必要ない。
- 新設の場合は、現スタジアムの地元鹿嶋市への管理替えを新設の前提にせざるを得ない。→公有財産は有償払い下げが基本となる。
- 管理運営主体が2つに分かれても、管理を民間委託するなど管理運営方式を検討しながら2つのスタジアムを効率よく管理運営することが可能。→管理替え後の市の負担軽減にもつながる。
- 現スタジアムを鹿嶋市へ払い下げすれば、県負担の管理費は増えないが、市の管理運営費は別途発生する。
- 新スタジアムは、プロチーム、有料の大規模大会等の開催を中心とすれば収支バランスは均衡すると考える。
- 払い下げ後の現スタジアムについては、低料金で中規模程度の大会を目安とし、施設の管理運営費も低廉に抑えることは可能と思料されるが、市の意向がポイントとなる。
8.建設コストと有償払い下げ
- 建設コストは改修に比較して高くなるがどうする。
- 現スタジアム管理を地元に移行することを前提にするならば、現スタジアムの有償払い下げを考えるべきではないか。
(検討)
- 改修より最大50億円程度高くなると想定される。
- 鹿嶋市への有償払い下げが可能であるなら、改修費との格差を最小にすることができ、財源的にも少ない投資で大きな効果が得られる。
9.地元鹿嶋市が現スタジアムの有償払い下げに応じられない場合でも、新設するのか。
(検討)
県立スタジアムは、同一地域に2つ必要ない。スタジアム管理の観点からも、新設も、鹿嶋市の現スタジアムの買収が前提とならずを得ない。
10.建設地は検討しないとのことだが、建設可能地はあるのか。用地買収等から初めてW杯前年(平成13年春)までに間に合うのか。
(検討)
- 現スタジアムの隣接地に鹿嶋市管理のト伝の郷運動公園多目的広場(約10ha)がある。市管理地のため用地確保は比較的容易であり、建設スケジュール期間内に新設できると考えられる。
- 用地取得については、現スタジアムの県有地とト伝の郷運動公園の市有地との交換が考えられる。それ以外(ト伝の郷運動公園内)の民有地については、買収が基本となる。
- 新設の場合は、用地確保の容易性、駅近俵、駐車場確保、現在進行中の道路等の整備状況などから判断して「ト伝の郷運動公園」敷地しかない。
- この実現のためには、市の都市計画等、周辺の将来計画と調和がとれなければならない。
11.新設により、新たなインフラ整備の必要が出るのではないか。間に合うのか。
(検討)
ト伝の郷運動公園内敷地を新設場所とすれば、現在、現スタジアムの改修を基本に進められている道路体系の整備、鉄道輸送力の強化検討、宿泊対策に変更は出ないため充分対応できると考える。