1996年5月31日、国際サッカー協会(FIFA)の理事会で2002年ワールドカップの日本・韓国共同開催が決定した。 ワールドカップの茨城県への招致に関しては、いち早く県立カシマサッカースタジアムでの開催に向けて県民上げての運動が高まっていた。 日韓共同開催が決定した現在、そのカシマサッカースタジアムの具体的改修計画が大きな注目を浴びている。 茨城県サッカー協会や地元鹿島市から、「現スタジアムを改修するのではなく、新しいサッカー場を建設した方が良いのではないか」との要望や意見が寄せられた。 県は、カシマサッカースタジアム整備検討委員会を設置し、改修か新築か、その具体的な整備計画を検討することになった。 8月に設置された検討委員会は、12月までに5回の委員会を開催し、多方面にわたる検討を重ねてきた。 ここでは、その最終報告書を全文掲載する。
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本委員会は、本年8月7日に設置されたが、その目的は茨城県知事の委嘱を受け、2002年FIFAワールドカップを開催するためのカシマサッカースタジアムの整備に関し、幅広い見地から調査検討を行うことにある。
2002年FIFAワールドカップの開催地は、本年5月31日に開催されたFIFA(国際サッカー連盟)の理事会において日本と韓国の共催により実施することと決定された。
このような状況の中で、開催地に立候補している茨城県としては、2国共催といえどもできるだけ多くの試合の開催を引き続き推進するために活動を継続することを表明している。
茨城県は、2002年FIFAワールドカップの開催地に立候補するに当たり、会場としては県立カシマサッカースタジアムをFIFAの基準に合わせて改修し、本大会を開催することとしていたが、この間、ワールドカッブの開催を確実にするためには改修ではなく新設の万がよいのではないか等の新設論が各方面から提起されている。
本委員会は、これらの状況を踏まえながら2002年FIFAワールドカッブを茨城県で開催するための県立カシマサッカースタジアムの整備方策について、多面的に調査検討を進めてきたものである。
鹿島地域は鹿島臨海工業地帯の整備により大きく変貌したところであり、今や日本を代表する基礎素材産業の一大拠点となっているが、一方で単なる工業の街としての潤いの欠如、新旧住民間のわだかまり、生活環境整備の遅れなどが顕在化してきた。
このような中で平成2年に開催された「楽しいまちづくり懇談会」の提案に基づく、Jリーグ「鹿島アントラーズ」の誕生と同チームのホームとしてのカシマサッカースタジアムの建設は、スポーツ・文化を核とした街づくりのメイン事業として行われたものであった。
現在、県立カシマサッカースタジアムは鹿島アントラーズのホームスタジアムとして毎試合超満員の観客を集め、鹿島は今やサッカータウンとして全国の街づくりのモデルとも言われるようになった。
新旧住民が老若男女を問わずに一緒になってアントラーズを応援し、そのことにより地域に一体感が生まれ育っている。
FIFAワールドカップは、世界の人々が最も愛するスポーツ(サッカー)の4年に一度開催される世界選手権であり、2002年には世界の多くの人々が茨城.鹿島を訪れることが予想される。
ワールドカップの開催は、@県民スポーツ意識の高揚、Aスポーツ文化の振興、B国際交流の促進、C地域の振興などの面でJリーグを上回る効果が期待でき、更に世界に向けて情報を発信することによる地域のイメージアップも大きなものがある。
また,ワールドカッブの開催のためにはスタジアムを初めとして道路、橋梁、鉄道、ホテル、駐車場などの関連インフラの整備事業も一気に進むと思われ、まさにワールドカッブの開催は茨城県と鹿島地域の発展に大きく寄与するビックブロジェクトである。
本委員会は、8月7日に設置され、同日第1回の委員会を開催した。検討を進めるに当たっては、限られた期間において効率的に調査検討を進めるため、委員間において基本的な事項について申合せをし、それらを前提に審議することとしたが、その内容は次のとおりである。
ワールドカップを開催するためには、4万人以上の観客席、3分の2以上に屋根を付ける、一定数以上のVIP席やプレス席を用意するなどFIFAの定めた基準をクリアーしたスタジアムを整備しなければならない。
現在の県立カシマサッカースタジアムは、全席屋根付きで1万5千人の個席の観客席を有し、フィールドはセルシステムによるサッカー専用とするなどまさにJリーグ発足時(平成5年)には日本一のサッカー専用スタジアムとして建設されたものである。
しかしながら、観客席の数、VIPやプレス対応、警備対策などはFIFAの要求にはまったく答えられないものである。
県は、平成4年7月に2002年FIFAワールドカップの開催候補地に立候補したが、このときの開催計画においては現カシマサッカースタジアムをFIFAの基準に合うように改修して大会を開催することとし、これに伴う基本設計は既に了している。
一方、ワールドカップの日韓共催決定後に県サッカー協会や県議会議員、地元鹿嶋市などから新設検討の要望があり、県がこれを受けて専門家に依頼して作成した新設の4つの企画案は、いずれの案もFIFAの基準をクリアーした上で改修案に比べ、最大で50億円程度高くなる見込みである。
4万人分のチケットのうち30〜35%は海外で販売することが義務付けられるなど、多数の観客が県外及び海外から訪れることが予想される。
このことは、通常のJリーグの試合と比較して単に観客数が増えるだけでなく、公共交通機関利用者の増、宿泊観戦者の増、地理不案内者の増など多方面にわたる対策が求められる。
さらに、試合によっては各国の元首級のVIPや数百人にのぼるマスコミ関係者なども来訪するため、警備対策等にも十分配慮する必要がある。
この地域の特性から、多数の観客が東関東自動車道を経由しての国道51号線及び124号線を利用することが想定され、この2本の国道がメインのアクセス道路となると思われる。
開催計画によると、国道51号線鹿嶋バイパスの整備は既に着手されており、また、国道124号線についても改良事業が始まっている。
また、千葉県と茨城県を結ぶ新銚子大橋についても既に事業化され、懸案となっていた国道51号線新神宮橋についても調査に着手するなど計画的に事業が進められている。
開催計画によると4万人のうち5千人を鉄道により輸送することとし、このことは車両の増、ホームの延長、行き違い施設の増などの輸送力増強対策を行うことにより十分可能としており、さらにJR鹿島線については東京方面からの臨時列車のカシマサッカースタジアム駅への乗り入れも検討されている。
宿泊者については県内で最大1万3千人を見込んでいるが、スタジアムから概ね60km、時間にして1時間の範囲内で2万人程度の収容は可能であるとし、さらに鹿島セントラルホテルなどの公的宿泊施設についても整備計画が進められている。
また、スタジアムから30分程度の成田市内にも7千人程度の受入れが可能であるとし、さらに、現在整備中の鹿島港北公共埠頭に大型客船を繋留し、ホテルとして活用する案も検討されている。
開催計画においては、スタジアムから20分以内の既存の4か所を練習場の候補としている。
いずれの施設も天然芝のフィールドを有し、105m×68mのピッチがあり、更衣室等の付帯施設も整備されている。
駐車場の確保に当たっては、現有5千7百台(民間含み)を1万2千台に拡張することを計画している。
民間駐車場については、従来の官民の割合を踏襲し、概ね4害リ4千8百台分を民間の整備に期待している。
カシマサッカースタジアムの改修・新設については、地域振興上の波及効果や、構造、施設の利活用方策、費用など幅広い観点からの比較検討上の課題が提起され、活発な意見が出されたが、それを要約すると以下のとおりである。
1.共通事項について
2.改修について
3.新設について
本委員会は、カシマサッカースタジアムの整備のあり方について多面的に検討を進めてきた。
各委員からは2002年FIFAワールドカップの本県開催のためのスタジアムの整備は如何にあるべきかということに関し活発な意見交換があり、以下を本委員会の意見としてとりまとめたので、報告する。
改修についてJリーグの試合を継続しながらの工事施工やフィールドの兼用化に制約がでるほか、新たな機能を付加する等の自由度には欠けるものの、次のような利点がある。
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新設についてハイグレードなサッカースタジアムが新たにできることによる相乗効果が期待できるほか、フィールドの兼用化による多目的利用、新たな機能を付加した施設整備が可能となるなどの利点があるが、次のような克服すべき課題がある。
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改修・新設のいずれにしても、ワールドカッブの開催については十分対応できるものであるが、県がスタジアムの新設に踏み切る場合には、県民の理解を求めると同時に、地元鹿嶋市の意向を十分に尊重すべきものと考える。
ワールドカップの開催のためにはスタジアムのみならず道路、鉄道、橋梁、港湾などの地域の将来を担うインフラの整備も極めて重要である。
スタジアムの整備万策は、予算、設計や工期の問題もあり、議会の意見などを踏まえながら県が方針を決定すべきものであるが、その際にはインフラの整備を含めて2002年FIFAワールドカッブが茨城・鹿島で成功裡に開催され、そのことが本県及び鹿島地域の振興に寄与するように、県をあげて努力すべきことを本委員会として要望する。
平成8年12月19日