脳卒中は、がん、心臓病と並ぶ三大成人病の一つ。毎年、全国で12万人以上の脳卒中死亡者が発生している。にもかかわらず、こと脳に関しては、近年まで人間ドックのような有効な予防検査は行われていなかったのが実情。そこで、最近、中高年に大きな関心を呼んでいるのが脳ドック。最新鋭の検査機器によってミリ単位の脳血管異常も発見し、脳卒中の予防に威力を発揮しているという。
国民の健康に対する関心が高まるなか、人間ドックの受診者は年々増加している。ところが、通常のドックは消化器・循環器・呼吸器などの検査が中心。これはがんや心臓病の予防・発見には一定の効果があるものの、人体で最も重要な臓器である脳については検査の盲点になっていた。
その大きな理由は、従来、脳の検査は技術的に難しく、検査による副作用や事故の危険も皆無ではなかったため。しかし、脳の検査を簡単で安全、しかも正確に行えるMRI(磁気共鳴装置)が登場してから状況は一変。脳の異常の早期発見を望む多くの人々に、朗報をもたらした。
MRIとは、磁気を利用して脳の状態を調べる最新鋭の機器。検査を受ける人は、大きな機械の中に上体をすっぽり入れ、数分から20分程度横たわっているだけ。その間、医師はブラウン管に映し出された脳の断層画像を見ながら、異常の有無をチェックする。この検査により、2〜3ミリ程度の微細な梗塞(こうそく)や腫瘍(しゅよう)、脳動脈りゅうなども発見できるようになった。
脳ドックに要する時間と費用は、2時間で4万円程度から一泊二日で20万円程度までと、各病院の検査内容に準じて大きな幅がある。
1990年から、日帰り(約2時間半)の脳ドックを開設した千葉脳神経外科病院(千葉県千葉市)では、これまでに約2500が受診。そのうち1000人の検査結果をサンプルとして集計したところ、4割近くの371人に二種類の異常が発見された。一つは直径2ミリ以上の梗塞。二つ目は、梗塞の前駆症状である直径2ミリ以下の小さな穴。
異常発見率は年齢層が上がるほど高くなり、30代で4.3%、20代で8.2%、50代で26.7%、60代で38.2%、70代で53.4%の人に梗塞が見付かっている。70代では実に半数以上という高率である。脳動脈りゅうも14例、脳腫瘍も4例発見されている。
最も代表的な胃がん検診の異常発見率は、87年のデータでは0.13%だった。これに比べると、脳ドックの発見率は非常に高いことが分かる。その大半は無症状なものであるが、放置すると、突然発作を起こして生命の危機に及ぶことも少なくない。脳の病気は早期発見すれば、食事療法や運動療法、投薬などで治るものが多いだけに、脳ドックは今後ますますクローズアップされそうだ。
千葉脳神経外科病院の水上公宏院長は、「約4000人の脳外科手術を行ってきた結論として言えることは、予防はいかなる治療にも勝るということ。特に、50代、60代の男性は社会的にも家庭においても大きな責任を負っている。ぜひ年一回は定期的に脳ドックを受けるべき」と強調。ただ現状では脳ドックを開設している病院が数少なく、申し込みから受診まで一年近くかかるケースも珍しくない。さらに、検査方法についてのガイドラインがなく、病院による技術水準にもばらつきがあるなど、問題点も多い。今後、脳ドックへの関心が高まるにつれ一定の基準を設け、アフターケアを万全にするなどの対策が要求されてこよう。
『脳卒中危険度チェック』
[年齢は60歳以上 | 50点 |
\血圧が高い | 上160以上、下90以上=40点 |
]糖尿病である | 30点 |
^両親が脳卒中あるいは高血圧 | 20点 |
_酒を飲み過ぎたり、脂肪・塩分を多く取る方 | 20点 |
`ヘビースモーカーである | 10点 |
a肥満体である | 10点 |
b心臓に不整脈が見られる | 10点 |
c運動不足である | 5点 |
dストレスがたまりやすい | 5点 |
長野県岡谷市では、本年度から市指定の医療機関における「脳ドック」受診費用の一部助成を実施し話題を呼んでいる。同市では、同時に国保被保険者への人間ドック補助も実施に踏み切り、合わせて国保対象者以外(社会保険対象者など一般)の市民に対する「脳ドック」受診への助成も開始。一般の市民に対する「脳ドック」助成は県下初の試み。国保対応では中野市に続き県下二番目。
同市の「脳ドック」助成は、国保対象者について30歳以上〜70歳未満で人間ドックへの〈脳部分〉追加補助が10000円〜15000円、その他、一般の市民については35歳から5年ごとのいわゆる節目検診で65歳まで「脳ドック」のみ25000円を助成。通常の費用は約27000円〜50000万円であり、30〜50%間の助成となる。
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