日立の穴 第24号

−日立の海の幸が味わえる店発見−

『日立の穴』ファンから、おいしい魚料理が味わえるお店の情報が寄せられました。取材を申し込んだ時、ご主人ちょっと迷惑そうだったので果たして取材させてもらえるか、という不安をかかえつつも、JR日立駅に程近い飲み屋街の細い路地を、「忠」という文字が大きく書かれたのれんを目印に行ってきました。

ご主人の古舘さんが『魚の宿 忠』を日立に開いたのは26年前。「うちで使う魚は、ほとんどこの近くの海で獲れたものだから」日立の会瀬や久慈浜の港では、石鯛やカレイ、目光(めひかり)から、なんとウニまで獲れると聞いてびっくり。それをいかに美味しく食べてもらうか、そこが古舘さんの腕のみせどころ。特にどこで修行したわけでなく独学で料理を覚えていったのだそうです。
これは使える、と思ったらなんでも利用。裏口に繁っているブドウの葉を料理の引き立てに使ったり、貝殻を洗面台の水受けにしたり、表の柵の飾りに使っていたり。そうかと思えば、トイレがミニギャラリーになっていて、ただの魚料理の店ではないとみた。「そういったことは全てこの人がやっています。なんか次々にアイディアが浮かぶみたいで。私はもっぱら料理を運ぶ役なんですよ(笑)」と笑う奥様。どうやらご主人は、かなりのアイディアマンらしい。それにしても奥様、着物が良く似合いそう。

こちらのワインやお酒は「忠」オリジナル。古舘さんはワインが好きで、20年以上前から「忠」オリジナルを作ってもらっているのだそう。「魚=白ワイン」というイメージからか、以前は白ワインの方が出ていたそうですが、最近のブームで赤を頼む人が増えたといいます。
日本酒は隣町にある椎名酒造の「富久心」という銘柄で、ラベルが「忠」オリジナル。一枚一枚手書きのラベルには「魚の宿忠 特注」と書かれ、なんだか一味違ったお酒を期待してしまいます。300mlで900円、4合で3000円から。

笠間焼きの器で料理を引き立たせる。「器が良くないと、いくら料理が立派でも駄目だね」というのがご主人の意見。コースは5000円からあり、その時仕入れた魚でメニューが決まります。

刺し身の味を引き立たせるお醤油は、大みかにある玉姫しょうゆ醸造のもの。塩分がきつくなく、やわらかい味。
生牡蠣といえばレモンと思いがちですが、こちらではすだちを使用。徳島のすだち農家と契約していて、一年中収穫されるので、いつでも新鮮。ご主人いわく「レモンは食べ物の味を殺すから、すだちの方がいいんだ」なるほど。

月曜から木曜までは接待客が多く、金・土は30代以上のカップルやご夫婦がいらっしゃるとか。若い人はさすがに少ないらしい。「入りにくい?だってわざと誰彼入って来らんないように造ってあんだ」
「昔に比べて、接待はとんと減ったね」という言葉に、不況といわれて久しい昨今、大企業の台所も厳しくなった現状がうかがえます。お店のまわりも飲み屋さんが、消えては出来て、また消えて。そんな中で、26年も同じ場所でお店を続けているご主人はきっと、日立という企業の隆盛と不況の現実、街の移り変わりを痛いほど肌で感じているに違いありません。

「山の中でのんびりとお店をやりたいってのはあるね。一日に2組くらいの予約で、のんびり魚料理作って」という古舘さん。奥様は「男の人は年をとると田舎に帰りたくなるみたいですね。女の人は今の暮らしを保とうとしますけど」ということは、奥様はあまり乗り気でない?「ええ、まあ(笑)」

話し方がぶっきらぼうだけど、実は話の分かるご主人と、そのご主人のフォローをしつつも一歩下がり、温和な奥様。なんだか『夫唱婦随』という四字熟語を思い出しました。始め抱いていた不安もいつしか消え、思うは I will save a lot of money to come here with important people.ということ。だって、気の合うあの人とゆっくり味わえるこんな店、内緒じゃもったいない。


317-0072 茨城県日立市弁天町1-7-5
tel : 0294-22-5460
営業時間:PM5:00〜PM10:00
定休日:日曜日
Last modified 8/22/98  Maintained by jsdi