ドイツでの制度導入の経過 日本の介護保険のたたき台となったのがドイツの介護保険制度です。介護保険制度を持つ国は、ドイツと日本の2カ国だけです。
ドイツでは、介護保険の導入について約20年間、国民的議論をしてきました。その議論の中心は、@保険料をいくらにするのか、A健康保険と介護保険での治療、看護、介護、リハビリの関係がどうなるのかでした。
ドイツの介護保険制度の仕組みを概括的に述べると、保険事業の主体者は、14の州に設置されている17ケ所の地区疾病金庫となっています。また、介護の必要性を認定するMDK(介護の度合を認定する審査機関)は、疾病機関連合会が行っています。
実際の介護サービスは、連邦全体に組織されている6つの公私福祉連盟が行い、日本のように区市町村の手はわずらわさない仕組みです。
制度導入に際しても、公私福祉連盟と障害者団体が重要な役割を果たし、疾病金庫がテレビでのPRや催し物を実施して情報提供に努め、何よりも加入者への周知と理解を大切にしたプロセスを踏んできました。
保険料は、1995年、在宅サービスがスタートした時点では所得の1%でしたが、1年3ケ月後に施設サービスが始まってからは1.7%になりました。年金受給者の保険料は、年金給付機関と折半で年金から天引きされます。企業の健康保険加入者は、労使折半になっており、失業保険受給者と生活保護世帯は、給付機関の負担となります。自営の人は、20ぐらいある民間の保険会社と健康保険を契約しているので、保険料を保険会社に納め、保険会社が疾病金庫と契約して介護保険に加入する形を取っています。
給付は、サービス給付と現金給付の選択が可能で、次のように4段階に分かれています。
(表1)ドイツの介護給付の内容
*サービス給付と現金給付の組合せも可
状 況 サービス(現物)給付 現金給付 在宅 1級 相当の介護を要する者
(最低1日1回の要介護)月額750マルクまで
(52,500円)月額400マルクまで
(28,000円)2級 重度の介護を要する者
(最低1日3回の要介護)月額1,800マルクまで
(126,000円)月額800マルクまで
(56,000円)3級 最重度の介護を要する者
(24時間の要介護)月額2800マルクまで
(196,000円)月額1,300マルクまで
(91,000円)特例 末期がん患者ら 月額3,750マルクまで
(262,000円)施設 月額2,800マルク(196,000円)までの費用負担
(部屋代や食事の費用は本人負担)特例で末期がん患者らには月額3,300(231,000円)まで
*1マルク=70円で換算当初、ドイツ連邦政府は介護サービスと現金給付の割合を50対50と予想していましたが、現実には82%の人が現金給付を希望しています。
なお、現金給付の場合、介護講習にカを入れるとともに、中度の人には6ケ月に1度、重度・最重度の人には3ケ月に1度、介護専門員が家庭訪問を行い、チェックをしています。
また、ドイツでは現実の要求に対応できるようにサービス選択の幅を広げています。例えば、1週間毎に介護センターに連絡をして、月、水、金をサービス給付にし、残りの火、木、土、日を現金給付にするなどの選択が可能です。
さらに、税方式が検討されたことがありますが、現在の行政機関が中心になれば中央集権が強まる恐れがあるということで税方式は取り入れられませんでした。
あえてドイツでの問題点を指摘すると、6つの公私福祉連盟のサービス体制が24時間対応になっていないこと、民間会社の増加に伴い、サービスの質を維持することが難しいのではないかとの懸念、などが挙げられています。