茨城県で10年ぶりに原子力防災訓練を実施 1999年9月30日に発生した日本の原子力史上最悪の事故・JCO臨界事故から丸二年を迎えるのを前に、茨城県主催では10年ぶりとなる原子力防災訓練が2001年9月29日、東海村やひたちなか市などで行われ、住民645人を含む約3300人が参加しました。
今回の原子力防災訓練は、以下の3点を目的に行われました。
(1)原子力災害時に応急対策を迅速かつ確実に行うことができるようにするため、防災業務関係者等の対応能力を向上させるとともに、防災関係機関間の相互協力体制の強化を図る。
(2)住民に原子力災害時にとるべき行動、留意点等について実際に体験し身体で理解してもらい、住民の原子力防災に関する知識の普及と意識の向上を図る。
(3)原子力災害対策計画や各種マニュアル等の実効性を評価し、その見直しに反映させる。
また、訓練の重点項目としては、
(1) 県・市町村等の初動対応
・JCO臨界事故に係る初動対応の教訓などを踏まえ、直ちに災害対策本部を設置し,地元在住の専門家等を招聘,意見等を聴取するなどして住民の防護対策について速やかに協議・決定するなど迅速な初動対応を行う。
(2) 児童や災害弱者を含む住民の避難
・原子力施設周辺の人口の集積が高いという状況を踏まえ、実践に則し、児童や高齢者など災害弱者を含む多数の住民が参加する避難訓練を行う。
・特に、児童の避難においては、児童を誘導する者の訓練が重要であることから、当該学校の教職員の参加は勿論のこと、それ以外の教職員の参観も行う。
・原子力災害の特殊性を考慮し、住民の避難搬送は主に自衛隊車両を活用する。
(3) 住民広報
・行政が直接行う広報については、広報車等に加え、市町村が新たに整備を進めてきた防災行政無線の戸別受信機(聴覚障害者向けのFAX・文字表示付のものも含む)やヘリコプターを活用した広報や、県等のホームページを活用した広報を行う。
・報道機関を通じた広報については、記者会見時に地図等を活用し、報道機関がそのまま中継できるような広報を行う。
(4) 緊急被ばく医療
・既存の「茨城県原子力医療センター」(国立水戸病院内)に加え、新たに県立中央病院内に整備した「茨城県放射線検査センター」を活用した緊急被ばく医療を行う。
の4項目が設定され、それぞれ具体的な訓練が行われました。。
訓練は、午前8時30分、東海村の核燃料サイクル開発機構(核燃機構)東海再処理施設で臨界事故が発生し、放射性物質が屋外に放出したとの想定でスタートされました。
8時40分には、県の原子力安全対策課にファクシミリと電話で、事故の第1報が核燃機構から寄せられ、県は直ちに、橋本知事を本部長とする原子力災害対策本部を県庁内に設置。8時55分頃より、知事は村上達也村長や経済産業省とテレビ会議を行い、住民避難などの初動対応を決めました。
10時からは、県庁福利厚生棟に設けられた暫定オフサイトセンターで、国や県、市町村の担当者による合同対策協議会が開かれました。
一方、東海村では、午前9時過ぎ、「無用の外出は控えて」との防災無線が日本語と英語で村内全域に響き渡たり、住民への広報活動が始められました。
村立照沼小学校では、校内放送が流れると、144人の児童が帽子にマスク、ジャージーの上下に着替え、避難を開始しました。これは、出来るだけ放射性物質に肌を露出させなおとの考え方によるものです。児童は、自衛隊のバスなどに分乗し、約4.5キロ離れた村総合体育館に向かいました。
一般住民は、自衛隊の輸送用トラックで、村総合体育館の避難所に避難。午前十時前から住民が次々到着しました。緊張した面持ちで放射性物質による汚染の有無を調べる検査を受けていました。
この他、災害弱者といわれるお年寄りや病気療養中の方も訓練に参加しました。また、ヘリコプターによる重症患者の搬送訓練も実施されました。
住民広報の訓練では、ヘリコプターを使った空中からの拡声器による広報や、JCO事故を契機に整備された防災無線の戸別受信機を活用した情報伝達訓練が、日立市や常陸太田市で行われました。
また、県が新たに整備したインターネット放送局(インターネットのストリーミング技術を利用したオンデマンドで番組を提供するシステム)では、知事の記者会見や対策会議の模様がリアルタイムで中継され、一定の成果を得ました。
県庁6階の防災センターに設置された災害対策本部。
テレビ会議システムを活用し国、県、東海村の責任者が情報と意見を交換します。
SPEEDI予測システム。
参考:SPEEDIネットシステムについて
オフサイトセンターは現在建設中のため、県庁福利厚生棟に暫定センターが設置されました。
ここで関係者が一堂に会し、事故への対策を協議します。
今回の防災訓練には、自衛隊も積極的に協力。住民避難には自衛隊の車両が使われました。
避難所に指定された東海村総合体育館の模様。
放射性物質に汚染されていないか、スクリーングや除染などの訓練が行われました。
真剣な表情で訓練に参加する住民母子。
防護服をつけ交通整理に当たる警察官
橋本昌知事
村上達也東海村長
産業経済省
核燃機構
ひたちなか市西十三奉行地内に建設中のオフサイトセンター
参考:オフサイトセンターについて
原子力防災訓練の模様をリアルタイムで中継した県のインターネット放送局
参考:茨城県インターネット放送局防災訓練を視察しての感想 井手よしひろ県議は、8時30分の訓練開始から第1回の合同対策会議までは、県庁舎(含む暫定オフサイトセンター)で、その後東海村総合体育館で訓練の状況を視察しました。また、終了後、県と国が建設を進めているオフサイトセンターの建設状況を視察しました。
JCO事故を教訓として、10年ぶりに行われた原子力防災訓練でしたが、住民の皆さんや学校関係者の方々の真剣の姿が非常に印象的でした。
今回一般住民の避難体制は、一度近所の避難所(コンクリート構造で放射性物質の影響を遮断できる建物)に集まり待機する。状況を見極めて、自衛隊の車両等で東海村総合体育館に避難するという二段階で行われました。しかし、参加した住民のからは「訓練だからこのような体制で避難したけれど、実際は一刻も早く現状から離れたいという一心から車で避難すると思います。その時に、避難が集中してパニックに陥るような気がします」。「ヘリコプターでの住民広報はほとんど聞き取れませんでした。自衛隊の車に乗っているときも、避難所でも、今、どこでどうゆうことが起きているのか全く情報を知る術がありませんでした。住民へどのように情報を伝えるか、この体制も検討してほしい」といった声が聞かれました。
また、訓練に当たった県の体制も、事前の準備が徹底され、本当の事故の祭は果たしてこれだけ円滑に対応が進むのだろうかと、疑問を感じるところがありました。
たとえば、訓練が始まる8時30分には、原子力災害対策室にはほとんどの担当職員が防災服を着て待機していました。実際には、この要員は他の職務をしているはずであり、県庁舎の様々な部署で執務中です。こうした要員をいかにして迅速に招集して対策室を立ち上げるかに、本来は大きな課題があるはずです。次回は、こうした訓練が必要になると思います。
また、些細なことですが、文書の印刷、配布などの体制も事前に、マニュアルを定める必要を感じました。 第1回の合同対策会議の会場の脇では、数人の職員が役員に配る資料のホッチキス止めやページの確認に汗を流していました。訓練では、指呼に関する資料は事前に印刷され、製本され、関係者の配布されています。それでも、多くの資料に整理番号などが振られておらず、対策会議でも委員がどの資料を見て良いのかとまどっている姿が散見されました。こうした目立たない危機管理の体制を、事前にしっかりと準備する必要があると実感しました。
いずれにせよ、今回の訓練の成果を活かすために、毎年この原子力防災訓練を定例化し、JCO事故を風化させない努力を積み重ねなくてはなりません。