米国同時テロ事件に対する公明党の対応
自民、公明、保守の与党3党は2001年10月1日、米国の同時多発テロ事件に対し、国際テロの防止・根絶のために日本が実施する活動を定めた「テロ対策特別措置法」の要綱に合意しました。同法案は、同月5日に閣議決定、臨時国会に提出されました。
そこで、新法制定の与党協議に当たってきた冬柴鉄三幹事長のインタビュー記事を転載いたします。
(2001年10月3日付 公明新聞から)
――テロ対策法案を検討してきた経緯を。
冬柴:今回の米国同時多発テロ事件のような国際テロを防止し、根絶するためには、国際的な協調が必要です。国連安全保障理事会決議第1368号において、今回の米国で発生したテロリストによる攻撃を「国際の平和および安全に対する脅威」と認め、この脅威を取り除くために国連加盟国に適切な措置を取るように求めています。
これに対し、国連加盟国である日本が、何をなすべきかが問われています。日本は憲法9条によって、武力行使を目的とした国際的な活動ができないことは当然ですが、自衛隊の国外への派遣やその活動のあり方については、国連平和維持活動(PKO)協力法、周辺事態法でかなり議論しましたので、その考え方を下敷きにして、日本として、主体的にテロへの対処の方針を立てようと検討してきたわけです。
国連安保理決議に基づいて ――テロ撲滅は外交で行うべきだとの意見もありますが。
冬柴:テロ根絶への長期的な取り組みとして外交、対話を続けていくことは言うまでもありません。しかし、今回のテロ事件の容疑者とされているウサマ・ビンラディンは98年8月にアフリカで米国大使館連続爆破事件を引き起こし、6000人を超える死傷者を出しています。米国はこの事件で、同人を米国法廷へ訴追し、外交ルートを通じて同人をかくまっているアフガニスタンのタリバンに身柄引き渡しを求めていますが、いまだに身柄引き渡しは行われていません。このテロに対し、国連安保理は3つの決議(第1267号<経済制裁等>、第1269号<テロ条約の早期締結や国際協調>、第1333号<第1267号を強化>)を採択し、ビンラディンとその組織をかくまいテロ訓練所を提供しているアフガニスタンのタリバンに対して、その行為を非難し、国連加盟国に対して、その防止などに適切な措置を取ることを求めています。
今回の事件に対しても、国連安保理決議第1368号が採択されており、こうした国連安保理決議に基づき、日本が主体的にテロ対策に取り組むための法整備が必要になったわけです。決して米国の“報復”活動の後押しではありません。
――なぜ、新規立法なのでしょうか。
冬柴:日本が国際社会と協調し、テロ撲滅への措置を行うのに、現行法では十分に機能しません。例えば、周辺事態法は活動地域の限界がある上、その目的は日本周辺の安全保障を確かにするものですから、目的が異なります。PKO協力法も目的が「平和維持」であり、今回の主たる目的の「平和の回復」ではありません。ですから、新法をつくる必要がありました。
アメリカ軍支援が目的ではない ―― 一部マスコミ報道のように「米軍支援が目的」ではないのですね。
冬柴:もちろんです。法案の名称をマスコミは「米軍等支援法」などと報道していましたが、間違いです。法案の正式名称(仮称)は「平成13年9月11日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法」となっています。長い名称ですが、この法律で定めるのは「支援」ではなく、日本が主体的に行う「措置」だと明確にされています。これは「目的をはっきりしなければならない」との公明党の主張が生かされたものです。
――ほかに公明党の主張が反映された点は。
冬柴:法律の有効期間は2年間という期限をつけさせました。目的であるテロの撲滅、例えば、ビンラディンの身柄を引き渡し、テロ訓練所を破壊し、テロ組織体を壊滅させるといっても、期限を切らず、ずるずるいくのは危険です。そこで期限を区切って、その後、さらに継続するかどうかは、もう一度国会が判断することで歯止めがかかると考え、時限立法にしました。
――武器・弾薬の補給はどうなりますか。
冬柴:武器・弾薬の補給をしないのは当然です。輸送については将来どんな必要性が迫ってくるか分からないので禁止事項とはせず、法案審議の中で「慎重に取り扱う」との政府答弁で確認しようと考えています。
実際、武器・弾薬の輸送を実施することになれば、閣議決定される基本計画の中に、どの地域で、どういう部隊が、どんな装備で、いつまで活動するかを明示しなければならず、その段階で、武器・弾薬を輸送するのかどうかの選択もできます。加えて、基本計画の国会報告も求めていますので、歯止めはかかります。
活動地域は、戦闘地域と一線を画した後方 ――活動の実施地域は。
冬柴:これは、憲法の定めと非常に関係が深い問題です。周辺事態法で「戦闘地域とは一線を画した」後方地域支援という用語が出てきました。日本の行為は武力行使が目的ではなく、活動地域も戦闘地域と一線を画すという考え方を今回の法律でも採用し、実施地域にも歯止めをかけました。
――武器使用基準は。
冬柴:活動地域の一つと予想されるパキスタンはアフガニスタンと隣接しています。自衛隊を派遣し、難民支援や医療活動に当たることになれば、これまでのように、自分と仲間の生命だけを守っていればよいということだけでなく、難民支援や医療活動の結果、自衛隊の管理下に入った避難民や医師、看護婦および患者についても当然に自衛隊が守らなくてはなりません。相手がこちらの生命、身体を狙ってきた時は、武器使用できるようにしました。さらに、自衛隊の武器・弾薬を奪われ攻撃される危険もあるため、自衛隊法第95条の「武器等防護のための武器使用」を認めることとしました。どのような武器を装備するかも、公明党の主張でそれぞれの活動ごとの基本計画の中に明確にするようになりました。
――事前の国会承認は必要ありませんか。
冬柴:必要はないと考えています。なぜなら、PKO法や周辺事態法は特定のケースを想定していない一般法ですが、今回の法案は、特定のテロ攻撃の実行者、組織および支援者を対象に将来のテロを防止し抑圧するためという目的の特別法で、目的を限定しており、この法案の審議自体が承認に等しくなるからです。その上、自衛隊が派遣されるつど、閣議決定により基本計画を作成し、決定・変更時には国会に報告されますので、歯止めがかかります。
――他国領域への自衛隊派遣は憲法違反ではとの指摘があります。
冬柴:相手国の同意があれば他国領域に行けますが、武力行使が目的ではありません。もちろん武器を携帯しますが、それは自衛のため、また関係者の身を守るためであって、武器を使うことを目的に出て行くわけではありません。“海外派兵”ではなく海外派遣ですので、憲法9条には違反しません。
参考:テロ対策特別措置法案(要綱)
参考:自衛隊法改正案(大要)
参考:国連「安保理決議1368」について