読売新聞社世論調査
96.09.14 東京読売朝刊25頁
日本はすでに、六十五歳以上の高齢者の総人口に占める割合が15%近くに達し、出生率の低下もあって高齢化はさらに急速に進んでいる。国民は高齢社会の現実をどう受け止め、豊かな老後のために何を望んでいるのだろうか。
◆あなたは、ご自分の老後の生活に、不安を感じていますか、感じていませんか。
大いに感じている 20.4 |
多少は感じている 41.5 |
あまり感じていない 27.2 |
全く感じていない 10.6 |
NA |
老後への不安について聞いたところ、不安を感じている人が「大いに」「多少は」を合わせて62%で、昨年7月調査(63%)同様に六割を超えた。不安を感じていない人は38%だった。
不安を感じている人が最も多いのは40歳代69%。60歳以上が65%と、昨年(56%)に比べて大幅に増えているのが目立った。
夫か妻 31.1 |
息子か娘 28.0 |
嫁 3.9 |
兄弟姉妹 1.3 |
身内の世話でなく在宅で 11.7 |
施設入所 18.2 |
NA |
介護が必要になったらだれに世話をしてもらいたいか――では、「夫か妻」31%、「息子か娘」28%など身近な親族をあげる人が多かった。
一方で「施設に入りたい」18%、「自宅でホームヘルパーなどを利用したい」12%という身内の世話になりたくない人も、昨年に続いて計3割にのぼり、家族に頼らない自立した老後への志向が根づきつつあるようだ。
男性の場合は「夫か妻」が42%で、主に妻を頼りにしているのに対し、女性は「息子か娘」33%が「夫か妻」23%より多かった。また、「身内の世話にならず」も女性計33%、男性計27%で、自立志向は女性の方により強く見られた。
大いに関心がある 38.4 |
多少は関心がある 43.4 |
あまり関心がない 13.9 |
全く関心がない 3.7 |
NA |
「公的介護保険」制度への関心では、「関心がある」が「大いに」「多少は」を合わせて82%にのぼり、「関心がない」は18%だった。「関心がある」は、20歳代(64%)を除くすべての年代で8割を超え、最多の60歳代では90%。老後に不安を感じている人(90%)、家族や知人に要介護者がいる人(88%)で多かった。
◆あなたは、「公的介護保険制度」の導入に、賛成ですか、反対ですか。
賛成 73.9 |
反対 4.5 |
どちらともいえない 20.4 |
NA |
「公的介護保険制度」を実際に導入することへの賛否では、「賛成」74%(昨年調査68%)、「反対」5%(同12%)で、「どちらとも言えない」が20%(同19%)だった。
具体的な内容がはっきりせず、知名度もいまひとつだった昨年に比べて、賛成派の増加が目立った。特に、昨年は賛成派が66%と比較的少なかった60歳以上でも、今回は77%と大幅に増えており、高齢世代にこの制度に対する期待が高まっているようだ。また、賛成派は、家族介護の主な担い手と見られる主婦層で76%と目立ち、身内や知人に要介護者がいる人でも78%と8割近かった。
【前問で「賛成」と答えた人だけに】
◇あなたは、「公的介護保険制度」を、できるだけ早く導入すべきだと思いますか、それとも、急ぐ必要はないと思いますか。
できるだけ早く 78.9 |
急ぐ必要はない 19.9 |
NA |
「公的介護保険」の導入に賛成した人に導入の時期について聞いたところ、「できるだけ早く」が79%にのぼり、「急ぐ必要はない」20%という慎重派を大きく上回った。早期導入を望む声は全体の58%だった。
新制度の導入は、当初1999年度の予定だったが、解散・総選挙が決定的になったため関連法の年内成立は難しく、導入は2000年以降にずれ込みそう。しかし、超高齢社会を控え、国民の多くは新制度の一日も早い実現を望んでいるようだ。早期導入派は女性に83%と目立ち、介護が身近な問題になる50歳以上でも82%と多かった。
◇介護サービスを受けることができるのは、40歳以上の国民に限るとしていますが、あなたは、これに、賛成ですか、反対ですか。
賛成 45.4 |
反対 31.9 |
どちらともいえない 20.9 |
NA |
「介護サービスを受けることができるのは40歳以上」という案については、「賛成」45%、「反対」32%で、「どちらとも言えない」が21%。各年代とも賛成派が反対派を上回ったが、その差は50歳以上では20ポイントを超えたのに対し、20〜40歳代では数ポイントにとどまった。介護サービスの対象者は、同省の当初案では65歳以上に限られていたが、保険料負担世代とサービス提供世代を一致させるために40歳まで拡大した経緯があり、中途半端な年齢区分が若年層には不自然に見えるようだ。
◇40歳以上65歳未満の人で介護サービスを受けることができるのは、痴ほう症など老化が原因の病気で介護が必要になった場合だけで、交通事故などによる障害は対象になっていませんが、これについてはどうですか。
賛成 25.5 |
反対 54.8 |
どちらともいえない 17.7 |
NA |
「40歳以上64歳以下は、痴ほう症など老化が原因の病気で介護が必要になった場合に限る」については、「反対」が55%で、「賛成」26%を上回った。サービスの対象には、痴ほう症のほかに脳卒中や骨粗しょう症などがあげられているが、老化が原因に絡む病気は無数にあり、「明確な線引きは不可能」と指摘する専門家も多い。その疑問は多くの国民も感じていると見られ、反対派は20〜40歳代の若年世代では61%、公的介護保険導入に賛成する人の中でも58%の高率だった。
◇保険料は、40歳以上の国民が負担するとしていますが、これについてはどうですか。
賛成 37.1 |
反対 37.1 |
どちらともいえない 23.1 |
NA |
「保険料は40歳以上の国民が負担する」については、「賛成」「反対」とも37%で、意見は完全に割れた。反対派は40歳代(47%)、30歳代(43%)に多く、20歳代と50歳以上では賛成派の方が多かった。これも当初の案では、「高齢者介護をすべての世代で支える」という発想から、保険料負担は20歳以上になっていたが、「負担世代と受給世代は一致させるべきだ」という指摘で「保険料負担もサービス受給も40歳以上」に変わった。新制度に必要な財源をどの世代で負担するべきかについては、国民が納得できる説明が必要なようだ。
◆この制度が導入されても、介護サービスを利用しないで、高齢者を介護している家族に対しては、(A)「保険料を払っているのだから、サービスを利用していない場合には、ある程度の現金を支給すべきだ」という意見と、(B)「家族の介護の負担を減らすのが制度の目的なのだから、現金を支給する必要はない」という意見があります。あなたの考えは、どちらに近いですか。
どちらかといえば 現金給付に賛成 41.5 |
どちらかといえば 現金給付に反対 38.5 |
どちらともいえない 17.7 |
NA |
現金給付については、「現金を支給すべきだ」42%、「支給する必要はない」39%で、意見が分かれた。
現金給付には、「保険料を徴収する以上、家族で介護しているケースには一定額を支給すべきだ」という賛成意見と、「制度の目的は家族の介護負担を減らすことにあり、現金給付を認めればその希望者が増えて負担を軽減できない」という反対意見があり、論議の的になっている。今回の調査でも、女性では支給賛成派43%が反対派35%を上回る一方、70歳以上では反対派40%が賛成派29%より多いなど、立場によって意見は様々だった。
◆同様に、この制度が導入される場合、あなたは、毎月の保険料として、いくらくらいなら負担してもよいと思いますか。次の中から、1つだけあげて下さい。
1,000円程度 20.2 |
3,000円程度 36.0 |
5,000円程度 23.8 |
10,000円程度 7.9 |
それ以上 1.3 |
負担したくない 6.5 |
NA |
この制度が導入された場合、毎月の保険料として負担してもよい金額を聞いたところ、「3000円程度」36%が最多で、以下「5000円程度」24%、「1000円程度」20%。保険料負担を容認する人は90%に達し、昨年(86%)より増えた。
厚生省の試算では、国民一人当たりの保険料負担は、制度導入から3年間の平均が月1200円程度になっており、当面は国民の許容の範囲内となりそうだ。
◆仮に、「公的介護保険制度」が導入される場合、あなたは、主にどのような介護サービスが利用できることを期待しますか。次の中から、3つまであげて下さい。
・ホームヘルパー派遣の24時間対応 | 50.5 |
・医師の往診や看護婦の訪問看護 | 51.4 |
・在宅介護者の介護施設への短期入所 | 23.6 |
・特別養護老人ホームなどへの長期入所 | 28.6 |
・痴ほう性老人のための専門施設への入所 | 30.6 |
・機能回復のためのリハビリ指導 | 27.0 |
・介護費用の補助や介護機器の給付・貸し出し | 32.5 |
・その他 | 0.3 |
・とくにない | 6.5 |
・答えない | 1.7 |
同制度が導入されたらどんな介護サービスを期待するかを聞いたところ、「医師の往診や看護婦の訪問看護」「ホームヘルパーの24時間派遣」各51%、「介護費用の補助や機器の貸し出し・給付」33%など、九割以上の人が何らかのサービスをあげた。30.40歳代では、介護する立場を意識してか「ホームヘルパー派遣」が52〜54%と多かったのに対し、介護される側に近い60歳以上では「医師の往診や訪問看護」が56%と目立った。
◆この制度では、各市町村などの自治体が介護サービスを提供することになる見通しです。あなたは、今お住まいの市町村で、十分な介護サービスを受けられると思いますか、そうは思いませんか。
受けられると思う 17.5 |
受けられるとは思わない 52.4 |
どちらともいえない 25.9 |
NA |
一方、現在住んでいる市町村で十分な介護サービスが受けられると思うかどうかでは、「そうは思わない」が52%と過半数を占め、「受けられると思う」は18%。公的サービスへの期待の大きさとは裏腹に、その十分な実現には悲観的な人が多いこがうかがえる。ホームヘルパー数などサービス基盤の整備状況には、自治体間で格差があるのは事実で、地域によっては十分なサービスを受けられないケースも考えられ、国民の多くはこうした現状を冷静に見ているようだ。「そうは思わない」は、地域、年代別などあらゆる属性で「受けられると思う」を上回った。
しかも、この市民意識はムード的なものではない。公的介護保険ができたとしても、十分な介護を受けられると思っている人は少ない。バラ色の制度と考えて賛成しているわけではないのだ。家族介護の限界が見えて、介護を社会的に支える必要があることが理解されはじめ、「サービスが不十分であっても制度を発足させるべきだ」という市民合意が形成されてきたと言って良いだろう。
保険料負担についても、「3000円」と「5000円」で計過半数を占めており、厚生省案の1200円よりはるかに高い。市民は「十分なサービスのためなら応分の金を出そう」と言っており、少額の保険料による不十分な制度は望んでいないのだ。
さらに注目されるのは、厚生省案では保険料負担は40歳以上とされているが、30歳代ではこれに反対する人が43%と、賛成(31%)を大きく上回っていることだ。若者が負担したくないというのは勝手な思い込みにすぎず、みんなが保険料を出し合って介護を社会で支えるという連帯意識は着実に育っている。
厚生省案のポイントについては、市民の意見は割れている。これは、厚生省案でいいから早く介護保険を発足させたいという声と、できるならもっと期待できる制度に変えたいという声の表れであり、対立的にとらえるべきものではないと思われる。つまり、厚生省案を出発点としつつ、より十分な制度としていくことが望まれるのである。
政府と自治体がいま取り組まなければならないことは、まずサービスの基盤整備である。新ゴールドプランを見直し、介護サービスの量・質の飛躍的向上を図る「スーパー・ゴールドプラン」を介護保険とセットで策定することが求められる。いかに寛容な市民であっても「保険あって給付なし」の状況にいつまでも黙っているわけではないのだ。また、在宅介護を望む声が多いことからも、多様な在宅サービスの調整を行うケア・マネジメントの本格的な実施が急がれる。
賛否の分かれた部分については、まず保険料負担を20歳以上とする方向が望ましい。サービスの給付対象についても、時期を明示して段階的に拡大していくことが検討されるべきだ。少なくとも老化による障害に限定するという規定は見直す必要がある。
要介護者本人ヘの現金給付は、介護サービスが十分に提供できる体制が整えば導入もありうるが、現時点ではサービス基盤整備を遅らせることにもなり、時期尚早である。いまは介護サービスの量と質の引き上げを先行させるべき時期なのだ。
◇
◆あなたのご家族や親せき、身近な知り合いで、介護の必要なお年寄りがおられますか、あるいは、おられましたか。
いる(いた) 45.6 |
いない 53.7 |
NA |
〈調査方法〉
・調査日=8月31日、9月1日
・対象者=全国の有権者3000人(250地点、層化二段無作為抽出法)
・実施方法=個別訪問面接聴取法
・有効回収数=2068人(回収率69%)
・回答者内訳=男45%、女55%
▽20歳代15%、30代16%、40代21%、50代20%、60代18%、70歳以上10%
▽大都市(東京区部と政令市)19%、中都市(人口10万人以上の市)38%、小都市(人口10万人未満の市)19%、町村24%
井手よしひろのホームページに戻る
ご意見・情報をお送りください(Email
y_ide@jsdi.or.jp)