Copyright Yoshihiro IDE (e-mail:y_ide@jsdi.or.jp) 最終更新日:1999/Feb/14 

介護保険導入まであと1年

茨城県議会議員 井 手 よしひろ

 現在、200万人と言われる介護が必要な高齢者は、2025年には520万人に増加すると予想されています。こうした高齢化の波は、少子化や同居率の低下などの家族の姿の変化と同時進行でやってくるのです。医療が進み、平均寿命が延びることによって、介護の重度化や長期化も進んでいます。

 国民にとって介護の問題は、今後、最大の不安要因になっているといっても過言ではありません。

 こうした中、2000年4月1日から公的介護保険制度がスタートします。しかし、その内容については、未だに不透明な部分が多く、利用者にとって不安になることが山積みされています。

介護保険は、健康保険とを比べてみると、その特徴がよく理解できます。

 健康保険も介護保険もふだんから保険料を納めます。健康保険は病気やけがの時に負担を軽くするための制度ですが、介護保険制度は、介護が必要になった時に必要なサービスを受けられる制度です。違いは、介護保険の場合、要介護(心身に障害があって入浴、排泄などの日常生活について介護が必要な状態のこと)の度合いの認定が必要だということです。また、サービスの内容が市町村で異なることや、介護にかかる費用の上限が症状によって決まっていることも挙げられます。

 介護保険の仕組みは、まず申請書に必要事項を記入し、市町村(東京23区は区)に提出します。市町村は、申請に基づき、「要介護」「要支援」の判定をします。「要介護」と認められれば、介護保険証でサービスが受けられます。サービスを利用した時はかかった費用の一割を負担します。

介護基盤の不定

 この制度にはいろいろと不安に感じることがあります。来年の4月からは、いよいよ保険料を負担することになりますが、一方では、介護を受ける人が増えるためホームヘルパーや施設が不足して十分なサービスを受けられないという心配があります。

 例えば、新ゴールドプランが達成しても、在宅サービスが受けられる人は、約4割にすぎないと厚生省の試算でも出ています。新ゴールドプラン自体が茨城県ではとうてい達成できる水準ではないので、これでは「保険あってサービスなし」になってしまいます。

 新ゴールドプランが達成した時点で、要介護状態の人の内、厚生省はだいたい4割の人しか介護サービスを希望しないだろうと試算しています。

 しかし、今度は、国民が保険料を払い、権利として当然利用することも考えられるわけですから、こうなった場合、たちどころに足りなくなると危惧されます。

 そこで、公明党は98年6月に介護サービスの基盤整備を一層推進するために、スーパー・ゴールドプランを提言しています。これは、@ホームヘルパーを60万人にA在宅介護支援センターを3万カ所にB特別養護老人ホームなどの拠点施設を全市町村に整備するなどで、介護需要に十分見合うだけの整備をするように訴えています。

 今までの福祉では、措置であって、役所がホームヘルパーの派遣は週何回、何時から何時までですと決めていました。利用者が一番来てほしくない時にくるようになった場合もあったと思います。従って、ホームヘルパーの利用率が2割ぐらいしかないんです。介護保険では、介護のサービスを調整するケアマネジヤー(介護支援専門員)がいて、利用者の身体や家族の状況に応じて様々なサービスをパッケージします。もちろん、利用者の希望が重視されます。その仕組みは大事なのですが、果たして希望が通るのかは、十分なサービスがあるかどうかがカギになってきます。今でも、特別養護老人ホームや施設が少ない状況ですから、選択どころじゃないのが実態です。

 そうした理由で、介護基盤の整備にまずカを注ぐ必要があります。

 ヘルパーに関しても、介護保険が始まれば、効率化が重視されます。ヘルパーが月に何時間、その対価を介護保険が報酬として払うのです。だから、そのいくらを払うかという基準が、極めて低いとヘルパーは、余計、数をこなそうとしてしまうのです。今のヘルパーの大事な仕事は、家事援助とともに介護される人の話しをじっくり聞くことです。そういう意味からもヘルパーにも余裕がなければなりません。

認定の公平性

 介護基盤が不足しているからといって、介護認定基準を適当に変えてハードルを高くしたり低くしたりして、対象者を調整したら大変なことになります。だから、認定の公平性をしっかり確保することが必要です。

 また、痴呆性の方の認定は大変難しくなることが予想されます。痴呆の老人が、一歩外へ出ると、普通に挨拶をするから、余所の方は、痴呆なのかどうかなかなか判断しづらいという例はいくらでもあります。本当に大変で重度だと思っていても、意外に低い認定が出る場合があります。医者であっても、痴呆を専門にしていない場合には、どのような判定を下すか大きな疑問です。

 痴呆は、特に斑(まだら)症状の時などは調査の時によって違うわけで、調査員が規場である程度の期間を見られるような余裕も必要です。

介護保険に盛り込まれなかったサービス

 来年から始まる介護保険のサービスには、配食や移送サービスなどが対象になっていません。介護保険は基本的なサービスしか対象としていないのです。

 配食サービス(食事サービス)は、お年寄りを寝たきりにしないためにも、絶対に必要なサービスです。敬遠されがちな介護サービスの中でも利用されやすく、お年寄りを社会で守る先導役となるサービスだと思います。

 移送サービスも導入が必要です。病院や福祉施設への移動をサポートする体制づくりが大事だからです。

 こうした、高齢者を寝たきりにしないためのサービスを、一刻も早く介護保険の中に位置づける必要があります。

低所得者対策

 保険料の問題も深刻です。平均で月額2500円、所得などに応じて5段階になるといわれています。しかし、年金だけで生活している夫婦には大変な負担になります。夫婦で付000円、年に6万円の新たな出費になります。

 さらに、介護保険は保険料とサービスを利用する時の1割負担があります。

介護保険制度では、一番重度の人は月30万円程度のサービスを受けられますが、そうすると3万円を負担しなければいけないということで、大変な負担になります。

 今の福祉制度で特別養護老人ホームに入っている人は、所得に応じて応能の負担をする仕組みなので、今は負担金がゼロでも、今度は最低でも2〜3万円の負担になります。

 保険料も所得などに応じて5段階になりますし、それをもっと下げることはできないのか検討すべきです。

若年障害者対策

 介護保険では、基本的には65歳以上の方がサービスを受けられる対象ですが、もっと若くても介護を受けなければならない人もいます。例えば40歳で交通事故にあって寝たきりになってもサービスは受けられません。それは、福祉で対応することになっています。しかし、せっかく保険料を払っているのに使えないというのは問題があると思います。

 若年者でも、特定の15の疾患は、介護保険が受けられるようになります。しかし、他の病気の方もいますし、いまだに問題が残っているわけで、これは3年後の見直しの最大課題だと思います。

福祉オンブズマン制度

 介護保険では、認定以外のサービスの苦情に対しては、国民健康保険団体連合会が担当することになっていますが、それだけでは対応は十分ではありません。認定が開始される当初は、その結果に対する不満・苦情が多数寄せられる可能性があります。それをすべて、県の苦情処理窓口で、短時間で解決することができるか大いに疑問です。

 そういった意味では、市町村の窓口が対応できる仕組みを作る必要があると思います。オンプズマン制度の採用も、ぜひ検討したいと思います。

介護保険で導入で切り捨てられるサービス

 介護保険の導入で一番の問題は、現在の措置制度の中で受けられていた福祉サービスがカットされてしまうケースが発生することです。

 例えば、現在の措置制度には、寝たきりの高齢者を介護をするひとが高齢者であったり(老老介護)、障害者であったりした場合、介護される本人の要介護の度合いが低くてもヘルパーや施設サービスを受けられるような柔構造の体制があります。

 しかし、このような体制は、介護保険の中では許されていません。

 70歳の老婦人が夫を介護している場合も、35歳のお嫁さんが舅を介護している場合も、介護受けるお年寄りの状態だけで要介護判定が行われます。介護保険には、介護する側への視点が全くないのです。

 さらに、現在給付されている介護慰労金などの現金給付制度が廃止されてしまう可能性があります。

茨城県では、寝たきりのお年寄りを在宅で介護するご家庭に年間5万円の介護慰労金が支給されています。市町村によって、県の慰労金に上乗せしていますので、8万円から10数万円が支給されています。

 平成10年9月の茨城県議会予算特別委員会で、私が県福祉部長に質問した時も、その回答は厳しい内容でした。

 このように、現在のサービス水準を守ることはどうしても必要な課題だと思います。

 多くの課題がある介護保険制度ですが、あと1年あまりで施行されることになります。

お年寄りや現場の声を反映させながら、具体的な仕組みづくりに全力投球して行かなくてはならないと思います。

在宅福祉サービス
訪問介護(ホームヘルプサービス)ホームヘルパーが家庭を訪問して介護や家事の援助を行います
訪問入浴浴槽を積んだ入浴車で家庭を訪問して、入浴の介護を行います
訪問看護看護婦等が家庭を訪問して看護を行います
訪問・通所によるリハビリテーション理学療法士や作業療法士等が、家庭を訪問したり、あるいは施設において、リハビリテーションを行います
医師等による療養管理指導医師、歯科医師、薬剤師等が家庭を訪問し、療養上の管理や指導を行います
デイサービスデイサービスセンター等において、入浴、食事の提供、機能訓練等を行います
短期入所サービス(ショートステイ)介護を必要とする方を介護施設に短期間お預かりします
痴呆の要介護者を対象とするグループホームにおける介護痴呆のため介護を必要とする方々が10人前後で共同生活を営む住居(グループホーム)において介護を行います
福祉用具の貸与及びその購入費の支給車椅子やベッドなどの福祉用具について貸与を行うほか、貸与になじまないような特殊尿器などについて購入費の支給を行います
住宅改修費の補填手すりの取付や段差解消などの小規模な住宅改修について、その費用を補助します
居宅サービス計画(ケアマネジメントサービス)介護を必要とする方の心身の状況、意向等を踏まえ、上記の福祉サービス、医療サービスの利用等に関し、居宅サービス計画(ケアプラン)を作成し、これらが確実に提供されるよう介護サービス提供機関等との連絡調整などを行います

施設福祉サービス
特別養護老人ホームへの入所
老人保健施設への入所
療養型病床群、老人性痴呆疾患療養病棟その他の介護体制が整った施設への入院

参考:98年6月時点の井手よしひろの介護保険への見解


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