大子町は茨城県の北西端で、北は八溝山系を境に福島県、西は栃木県に境を接している人口2万4千人余りの小さな町です。65歳以上の高齢化率は3割を超えています。(大子町の介護保険施行状況<資料編>表−1を参照)
袋田の滝と奥久慈温泉で有名なこの大子町が、全国的に知られたのは介護保険制度が導入されたことからでした。介護保険の保険料が、全国一安い自治体としてマスコミに広く報道されました。
大子町の第1号被保険者の基準保険料は年額18,400円、月額1,533円となり、全国平均の半額程度(全国平均は2,885円:平成11年7月調査)となりました。(大子町の介護保険施行状況<資料編>表−2を参照)
保険料が低く抑えられた要因としては、1)介護保険施設が少ない(特別養護老人ホーム1カ所、老人保健施設1カ所、療養型病床群は一カ所もない)、2)「他人の世話になりたくないなどの理由でサービスの受け入れに消極的な面が見受けられ」(大子町の介護保険事業計画P4)在宅サービス、特にホームヘルプサービスの利用率が低い(65.9回/100人当たり年間利用回数:H9老人保健福祉マップより) 、などが考えられます。
介護保険施行から1年が経過した2001年4月13日、井手よしひろ県議は、大子町を訪れ、施行状況を大子町保健福祉課長鈴木俊郎氏、高齢福祉係長藤田範男氏より直接ヒアリングしました。また、町内の介護保険関連施設(別表)3カ所を調査しました。
調査の結果、明らかになった実態は、以下の4点です。
1)介護保険サービスの需要が金額ベースで大幅に伸びている
2)在宅サービスの伸びは通所サービス、ショートスティーの伸びが主な要因である
3)施設サービス(特に特別養護老人ホーム)の入所基準に再検討が必要である
4)介護保険の給付は事前予測より高額に推移している
1)介護保険サービスの需要が金額ベースで大幅に伸びている 資料編の介護保険事業計画と実績との比較表を見てみると(表−8)、在宅サービスの利用額が1.78倍に伸びていることがわかります。反面、施設サービスは1.09とほぼ計画通りに推移していることになります。
2)在宅サービスの伸びは通所サービス、ショートスティーの伸びが主な要因である 在宅サービスの中では、ディサービスが310%、ディケアが193%、ショートスティーが222%と伸びています。(大子町の介護保険施行状況<資料編>表−9を参照)
しかし、介護保険の中心であるホームヘルプサービス計画比61%と低迷しています。茨城県の傾向性を見てみると、2000年6月から12月にホームヘルプの利用回数が147%増加しました。大子町では、同年7月から2001年1月にかけて91%とかえって利用回数が減少してしまっています。
大子町の場合、ディサービスが伸びた要因は、大子北ディサービスセンターの創設などにより、自宅に閉じこもりがちな高齢者にディサービスの効用が広く認知されたためと考えられます。
また、顕著な伸びを示しているショートスティーには、特別な理由があります。H13年1月時点でのショートスティー利用者は25人、その利用回数は261回となっています。平均で1人が10日間以上利用している計算になります。町の担当者の話しによると、老老介護などの理由により、本来は特別養護老人ホームなど介護施設に入所する必要がある高齢者が、施設の定員が満員のため入所できず、やむを得ずショートスティーを連続的に利用しています。これは、本来のショートスティーサービスの本来の活用形態ではありません。
3)施設サービス(特に特別養護老人ホーム)の入所基準に再検討が必要である 現在大子町には、特別養護老人ホーム久慈川荘があります。久慈川荘の定員は60名ですが、現在40人以上の待機者がいるとのことです。
介護保険制度が導入されて、要介護度1以上の高齢者は、その生活環境に関係なく特養への入所申込みをすることが出来ます。特養は、原則的に申込み順に、入所者を受け入れることになっています。介護する人が高齢者であるとか、介護をする人がいない単身者であるといった状況の差は入所の判定に加味することは出来ません。また、複数の施設に重複して申込みをすることも出来ますし、老人保健施設や療養型の病院、一般の病院に入院中の高齢者も申込みをします。そのために、特養ホームしか入所できない高齢者の行き場所がなくなってしまっています。
その受け皿が、ショートスティーの連続使用という形になって顕在化していると見るのが正しいと思います。「施設の入所基準に問題があるように思います。本当に必要な人が入れない状況になってしまっています」とは担当者の言葉ですが、偽らざる率直な感想でしょう。
4)介護保険の給付は事前予測より高額に推移している 2号被保険者の保険料は、介護保険事業計画による給付費の総額の3年間の平均から算出されます。したがって、大子町のように事業計画を超えて、給付費がかさむと3年間の期間中に財源の不足が懸念されます。そのために、市町村の連合組織である国民健康保険団体連合会(国保連合会)に、財政安定化基金を設置され、給付の見通しを上回って生じた給付費の増や通常の徴収努力を行ってもなお生じた保険料未納による保険財政の赤字をカバーするための資金を交付することになっています。
大子町が、この安定化基金の交付対象になるかどうかは、現時点でははっきりしません。しかし、基金償還分が発生すれば、次期保険料の見直しでは、保険料引き上げの要因となることも考えられます。
●大子町の介護保険施設 (撮影:井手よしひろ2001/4/13)
特別養護老人ホーム
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