猛毒・ダイオキシン対策を強化せよ!
井手県議ダイオキシンの排出が懸念される
竜ヶ崎地方塵芥処理施設を調査
県が周辺地域のダイオキシン調査を予算化
県は、井手県議らの要望を受け、平成8年度9月補正予算に,ダイオキシンの排出が懸念されている竜ヶ崎塵芥処理場周辺の大気、土壌、井戸水の調査費を盛り込んだ。
周辺住民の不安解消に向け,一歩が踏み出された。
主な発生源はごみ焼却施設
がんや奇形の原因となる猛毒物質のダイオキシン汚染が今、大きな問題となっている。主要な発生源は、ごみ焼却施設などとされる。
欧米諸国では、80年代後半から90年代前半までに厳しい規制措置を講じて対策に乗り出しているが、内外の専門家からは日本の対応の甘さ、立ち遅れが指摘されている。
1995年11月に入って、ようやく厚生省が重い腰を上げ、研究班を設置して規制値や対策づくりなどに乗り出した。しかし、水面下では「タテ割り行政」の弊害とも言える、環境庁との縄張り争いも見え隠れしている。
猛毒物質・ダイオキシンは、有機物と塩素が数百度の高温にさらされることによって発生する。
現在、主な発生源とされているのが、ごみ焼却場だが、プラスチック類を含んだ都市ごみや医療廃棄物などがごみ焼却場で燃やされると、猛毒のダイオキシンが微粒子や気体となって大気中に放出されることになる。
また、回収した金属の再生工場や、金属や鉄鉱石を焼き固めて加工する製錬所、パルプを塩素化合物で漂白する製紙工場、生ごみのたい肥づくり等によって発生することも確認されている。
さらに、雲仙・普賢岳の火山灰からも検出された。これは毒性のほとんどない種類だが、後で毒性の強いものに変化する可能性もはらんでいるという。
こうして発生したダイオキシンは、自然界の中ではほとんど分解されず、飲食物や呼吸などを通じて、徐々に人体に蓄積されていく。食べ物の中でも、魚介類のダイオキシンの蓄積濃度が高いとされ、比較的魚介類をよく食べる日本人は汚染度が高いという学説もある。
体に入ったダイオキシンの大半は体外に排せつされるが、油に溶けやすいために、その一部が脂肪組織などに蓄積されることになる。
しかし、どういう化学反応で生成されるのかは、いまだに明らかになっていない。専門家の間では、発生源そのものが、全体の半分も特定されていないという。
これまでの調査・研究では、体内に取り込まれた際の毒性のメカニズムもはっきりしていないが、毒性のある化学物質が体内に入ると、排出を促す酵素の働きが強まり、ホルモンが壊れることが判明している。これが繰り返されると、胎児奇形やがんの誘発、免疫力の低下を招くというのが有力な見方になっている。
米国環境保護局(EPA)は、「ダイオキシンの発がん性は動物実験で確認されており、人間にもその可能性がある」と報告している。
一方、愛媛大学農学部の脇本教授らの研究グループでは昨年、愛媛・松山市内でダイオキシンを観測し、1平方メートルに年間平均3.3ナノグラム(1ナノグラムは十億分の一グラム)の割合で地表に降下していることを解明した。
検出したダイオキシンを分析したところ、「燃焼」によって生成されたことが判明。同教授は、ごみ焼却場が発生源との見方を強める一方、国内全体で年間1.3〜1.4kgのダイオキシンが降り注いでいると試算している。
基準強化し、排出抑制急げ
ダイオキシンの人体への影響を抑えるため、欧米諸国では早くから厳格な規制を施している。
例えば、世界保健機構(WHO)欧州地域事務局は1990年に、人体への摂取許容限度を示す「耐用1日摂取量」(TDI)を10ピコグラム(体重1kg当たり、1ピコグラムは一兆分の一グラム)に設定するよう勧告。これを受けて、英国、オランダ、スイスなどがこの数値を採用した。米国では、環境保護局(EPA)が1994年9月に、0.01ピコグラムとするよう提案している。
これに先立ち、スウェーデン、デンマークはTDIを0〜5ピコグラム、1週間の耐用摂取限度(TWI)を0〜35ピコグラムと、さらに厳しい基準を設置。いち早くTDIを導入したドイツは、そのほかに目標値として1ピコグラムを定めるなど徹底した規制に乗り出している。さらに、最大の発生源とされる焼却炉対策でも、欧州諸国は年々規制を強めてきている。
<注:TDIとは、「生涯摂取し続けても、1日当たりこの量であれば健康への影響は受容できると判断される数値」>
一方、これまでの日本の対応はどうだったか。 国内には民間を含め、約2000カ所のごみ焼却施設があると言われるが、1983年、ごみ焼却灰からダイオキシンが検出されて社会問題に発展。同年、厚生省は1日の許容摂取量を、体重1kg当たり100ピコグラムと決め、1990年には、ごみ焼却施設等からの発生を抑えるために技術指針をまとめた。
ところが、この指針は、最も規制しなければならない既設の焼却施設や産廃処理場を対象外としてしまった。新設の焼却炉についても、「排煙1立方メートル当たり500ピコグラム以下に抑える」という甘さ。法的拘束力もない。
1日の許容摂取量は、欧米に比べて十分の一以下の緩い数値にとどまっており、市民団体等からは、「ごみ処理を円滑にするための数字」と批判を浴びてきた。
また、先の通常国会の衆院環境委員会で新進党の大野由利子さんが指摘したように、これまで国や自治体がごみ焼却炉のダイオキシン排出量を調査しているが、地域も限られ、データも公表されていないのが実態だ。
同国会で成立した改正大気汚染防止法について大野さんは、「ダイオキシンが規制項目に入っていない」と、政府の手ぬるい対応を追及。同法に、有害大気汚染物質に関する環境基準の設定、健康への影響評価を早急に進めるなど、五項目の付帯決議を盛り込ませた経緯がある。
激しい批判の中で、厚生省は1995年11月にようやく研究班を設置。1996年6月28日には中間報告を出し、TDIを欧州と同レベルの「10ピコグラムとする」ことを提案、遅ればせながら全国のごみ焼却施設の排出量調査にも乗り出した。ところが、環境庁でも、全く別個に化学物質の人体被害防止策を求める報告書を発表しており、「二通りの許容基準が出るのでは」と懸念の声が出ている。
事は人体に直接影響を及ぼす最重要課題である。政府の強いリーダーシップによって、適正な基準値を一日も早く設置するとともに、徹底した調査によって、基準値を超えた施設等については排出を制限する厳格な運用が強く求められる。
その場合、排煙から有害ガスやすず等を除去する最新装置を有している施設は全体の五分の一、400カ所にすぎないという現状にどう対処するのか。財政的に余裕のない中小自治体の焼却施設には国、県レベルが責任を持って無害化装置を整備すべきではないのか。また、ダイオキシンの原料となるプラスチック製品のリサイクルをどう徹底させていくのか。
「実害が出なければ着手しない」という後手後手の対応、旧来の手法はもう許されない。
ダイオキシンとは、
正式名は、ポリ塩化ジベンゾダイオキシン。毒性を持つ有機塩素系化合物で、分子構造から75種類に分類できるが、最も毒性の強いものは、2・3・7・8―四塩化ダイオキシン。ベトナム戦争で米軍が使用した枯れ葉剤にも含まれており、散布された地域で多くの流産や胎児奇形が発生し、注目を集めた。ベトナムでは、いまだに死産や奇形児が生まれる割合が高いという。類似した毒性を持つポリ塩化ジベンゾフランや、カネミ油症事件の原因と見られるコプラナーPCB(ポリ塩化ビフェニール=PCB=の一種)もダイオキシン類と総称される。
『地球規模で広がる汚染』ダイオキシンの発生源は先進国に集中しているが、既に北極や南極など地球規模で汚染が広がっていることが、国際会議等で公表されている。
これらの実態が明らかになったのは、ノルウェー国立大気研究所のオーメ教授らの調査・研究による。同調査は、北極圏のグリーンランド海域にすむアザラシ十頭の皮下脂肪を取って調べ、すべてからダイオキシン類を検出。最も毒性の強い2・3・7・8―四塩化ダイオキシンに換算して、脂肪1g中に平均38.35ピコグラムになったという。
南極圏では、オットセイ11頭を調べたところ、同換算値で平均6.81ピコグラムが検出されたが、北極圏より汚染濃度は低かった。これは、南半球に先進工業国が少ないことや大気や海流の流れが北極圏と異なるためとみられる。
極地汚染に詳しい学者らによると先進国で排出されたダイオキシン類は、北極あるいは南極上空に風で運ばれる。低温にさらされると大気中の粒子に付着して固まり、地表に降下しやすくなるという。
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