2000/10/23update |
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第3回公明党全国大会 重点政策(案)
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第1部 第四章 生涯学習社会における教育の再構築 ―社会全体の教育力再興をめざして― 1 教育改革への基本的考え方 (1)目的としての教育 21世紀を目前にして青少年問題をきっかけに教育の課題が大きくクローズアップされています。これは単に学校教育のみの問題ではなく、家庭そして地域など社会全体の「教育力の衰弱の問題」として捉えないとその本質を見誤ることになると考えます。 子どもをめぐる荒廃現象は価値観を見失った大人社会の反映であり、現代社会の本質的な問題点に根差しています。 20世紀までの教育に対する考え方は、富国強兵や経済大国の実現などのため、教育以外の何かの目標達成のための「手段としての教育」観が一般的でした。しかし、このような教育の手段視が人間の手段視を正当化し、軍国主義国家や産業優先社会、公害による国土荒廃などに象徴されるような生命の軽視、暴力の放置など20世紀の思潮の誘因となったのではないでしょうか。 また、私たちがつくりあげてきた便利で快適な社会は一方で人と人との結びつきを分断し、教育力を衰弱させる大きなマイナスの影響をもたらしたといえます。教育力の回復は人と人との結びつきの大切さを再認識することから始まり、結びつきを再構築することにより達成されると考えます。 教育とは本来、人と人との直接的触れあいのなかで互いに教育者となり学習者となって人格の完成をめざすのが、その目的です。人格の完成は教育の目的であると同時に人生の目的であるともいえます。民主社会は「一人一人の人格は異なっても、その人格を互いに無上の価値とし尊重し高めあう社会」と考えるならば、民主社会は教育を社会の手段とせず、教育自体を目的と位置づける社会でなければなりません。「手段としての教育」から「目的としての教育」へと教育観の転換が今、求められています。 (2)家庭、地域が支える「開かれた学校」 教育もしつけもすべて学校まかせ、という戦後日本の学校依存的体質が家庭、地域の教育力を低下させ、結局、学校崩壊を引き起こしたともいえます。「子どもの最初の教師は両親である」との原点に戻ることが社会全体の教育力再興の第一条件と私たちは考えます。 その上で、地域そして学校の役割も重大であるといわなければなりません。その学校は教師が圧倒的に主導権を握って今日まで運営されてきており、家庭・地域に対して閉鎖的との批判が多くあります。 最近、学校施設の地域開放とか、余裕教室の教育目的外利用という施策が進んでいますが、閉鎖性が克服される状況にまでは至っていません。地域社会そのものが学びの場である、教師が中軸になって地域社会も保護者も一体となって学校を支える――そのような学校の再構築こそ「国家のための学校」から「みんなのための学校」への質的転換を可能にすると考えます。 (3)教育の政治的中立性の重要性 教育基本法第10条第1項には「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」と規定されています。ここで規定されている「教育」は学校教育はもちろん、社会教育そして家庭教育も含まれます。また、純粋教育活動だけでなく、教育行政も含まれます。 こうした規定の意義は、教育は人格の完成をめざし、精神世界にも影響を及ぼす崇高な行動とみなされていることに由来しています。教育が実現をめざす価値は政治に左右されてはならず、したがって教育活動は公権力からの中立性が保障されなければなりません。その意味で、この第10条の規定は教育基本法の根幹をなす重要規定であると考えます。 (4)高等教育と生涯学習 社会の急速な発展に伴い、学問分野の細分化や専門化が進んでいます。これは致し方ないことですが、このような流れだからこそ、細かい専門的知識を使いこなせる全人的教養が必要となりますし、また、人生のいかなる時でも学ぶ姿勢を崩さない生涯学習が重要となります。「専門」と「教養」を兼ね備えた高等教育、生涯学習のシステムを創造します。 (5)教育基本法についての考え方 教育は大きな転換期にあります。新しい教育のビジョンを国民全体で議論し考え、改革を進めていかなければなりません。そのようななかで、教育基本法の見直しが論議されていますが、前文にもあるように教育基本法そのものは日本国憲法制定を契機に制定され、その精神において現憲法と軌を一にしています。特に、教育の目的を「人格の完成」と規定したこと、教育が政治から中立でなければならないとしたことなどは、永遠にめざすべき指針として堅持されるべきです。教育基本法の改正問題については十分に時間をかけた検討、議論の深まりが必要と考えます。 2 教育行政改革 (1)「教育改革会議」(仮称)の創設 大綱的な教育内容の検討や中長期の教育方針策定など教育のグランドデザインを策定するための常設審議機関として「教育改革会議」(仮称)を設置します。同会議は、教育について深い見識と視野を備えた民間の有識者、研究者、文化人、学校関係者などで構成され、極めて高い政治的中立性を持つものとして扱われ、例えば現在ある「教育改革国民会議」を発展的に改組してこの任にあたらせることも考えられます。 (2)教育委員会の活性化 教育委員会を活性化させることによって、教育の一般行政からの独立を制度的に徹底し教育の地方分権を進めます。例えば地域の特性や教育現場の意見、工夫が直接反映されるよう教育委員の選任方法の改善など教育委員会の体制を刷新します。 (3)地域カリキュラムセンターの設置 都道府県に置かれる教育センターを改組し、地域の地理、歴史、風土に根差した教材の作成や教育方法の開発を検討し教員などの相談にも応じる地域カリキュラムセンターとして設置し、教育委員会の企画立案を補佐します。 3 学校運営改革 (1)学校長のリーダーシップを活かす学校運営 教員や父兄など学校が一体となって教育力を高めることができるように、学校長のリーダーシップが発揮できるシステムが必要です。学校長の権限と責任を明確にし、教職員の人事・学校予算の編成・学校独自の教育方針の策定などで学校長の決定権限を拡大します。 また、校長の日常業務を補佐するため、教務及び事務を担当する副校長制を検討します。 学校は、学校教育だけでなく地域社会の生涯学習の拠点として今後ますます重要性を増してきます。公募制や民間人からの登用など学校長選任の幅を拡大するとともに、マネージメント能力の養成のために大学院に校長専門職の養成コースを設けます。 (2)学校の情報公開制度の確立と学校評議会の設置 学校がその教育機能を回復するためには、学校、地域、家庭の連携のなかで学校を支え育てる必要があります。その第一のステップとして、学校がどのような教育を行っているかを保護者、児童生徒、地域住民に知ってもらうために、学校情報公開制度を確立します。 第二は、定期的に地元関係者や父兄への学校公開日を設けたり、学校公聴会などを開いて学校と地域、父兄の対話を活発にします。 第三には、学校ごとに父母、卒業生、地域代表などで構成する学校評議会を設置し、学校運営や教育効果を評価し、教育委員会や学校に意見具申するシステムを構築します。 (3)通学区域の弾力化 公立小中学校の学区制は子どもや父兄から学校選択の自由を奪っており、いじめや不登校の背景の一つともいわれています。通学区域の弾力化は、就学校の選択権を広げることによって子どもと学校の間に新たな信頼感を醸成するとともに、教育する側の公立学校間にも競争原理を導入することによる教育面の触発や刺激が生まれる効果も期待できます。 (4)研究開発校事業など学校の多様化を推進 学校の活性化は、文字通り学校が学ぶ喜びに満ちた場に変わることから始まります。その点、学習指導要領を始めとする硬直的な義務教育制度が「面白くない学校」「詰め込み授業」を誘発していると指摘されています。こうした教育の実態を打破する手法として、現行の教育法制にとらわれない研究開発校事業の積極的活用が「楽しい学校」や「分かりやすい授業」などの教育効果を上げています。地方教育委員会でも研究開発校を独自に認定したり、期限付きで学校開設が特別許可される公設民営学校(チャータースクール)やフリースクールなどを研究開発校として認定できるよう制度を拡充します。 (5)学校施設の整備・改善 学校トイレの改善・整備、教室などへの空調施設の設置、学校施設のバリアフリー化など、快適な学校施設に向けて整備に努めます。 4 教員改革 (1)優れた教員の採用と養成 「優れた教員の発掘と育成こそ教育改革の要諦」といわれるように、優秀な教員の採用・養成システムこそ急務です。教職員の教育業績の評価及び人事システムを再構築するとともに、教員免許に更新制を導入します。さらに雇用契約制による教員採用や、社会人や障害者、外国人の教員の積極的採用を進めます。 (2)「臨床教育学」の構築 国立教育政策研究所に各地の学校や教員の創意工夫に満ちた教育事例のデータベースを構築するとともに、教師の教育相談に対応できる窓口を設置します。興味を呼び起こす教授法や分かりやすい授業などの「臨床教育学」の学問体系化を進め、教育系大学院に講座を開設するなど実践的な教育方法の開発を推進します。 5 学習内容改革 (1)自然や人間と共生する教育 子どもたちの人間関係や自然体験の希薄化が指摘され、社会や集団活動のなかで対話や交流を通して物事を進めたり仕事を成し遂げる能力の不足が目立っています。職業体験(トライやる・ウィーク、インターンシップ)やボランティア・介護奉仕などの地域活動、洋上学校や森林学校など自然体験活動等を積極的に取り入れていきます。 (2)コミュニケーション能力を培う教育 <1> 一クラスごと一律授業方式を改め、理解度、進度、個性に応じて小人数グループ学習が実施できるよう柔軟な学級編成を可能にします。 <2> 自分の意見を表明する技術を磨くディベート(討論)形式の授業を採り入れ、また、小学校段階で会話中心の英語教育を進めます。 <3> 一人一台のパソコン配備と高速ネットワークへのアクセスによって、情報リテラシー(活用する能力)を向上させます。 (3)知恵をはぐくむ教育 記憶中心の詰め込み教育の行き過ぎによって、子どもたちに「学ぶこと」の意義を見失わせています。知識の個別性や知恵の全体性、生きることとの関係性などを学ぶためには名作や偉人伝に学ぶことが有効であり、学校や家庭で古典や良書に親しむ運動や図書館などの環境整備を推進します。 (4)単位制・総合学科制高校の拡充 高校教育において、生徒一人ひとりの学習意欲・自主性を尊重しそれぞれの人生への選択の準備を着実にすすめることができるよう、選択履修機会の拡大や科目選択を自由に行う単位制や総合学科制の高校を拡充します。 (5)「ゆとり教育」のあり方の見直し 「ゆとり教育」は、本来の目的である「考える力」の育成から離れ、単に授業時間を減らし教育内容の簡素化のみに終わる傾向が見られ、児童生徒の学力低下の一因となっているといわれています。「考える力」を養い、知徳体のバランスのとれた正しい知育を充実させる必要があり、いわゆる「ゆとり教育」について再度見直します。 6 進路指導の見直しと入試改革 現在の進路指導は受験指導が主流となっていますが、本格的進路指導は学校と社会の垣根を低くすることから始まります。高校入試、大学入試の改革は中学生や高校生の「職業体験学習」の充実が前提です。生徒が社会の現実に触れることなくして、真の進路選択はあり得ないからです。また、社会の現実を知ることが人間的な成長を促します。 そうした観点から、<1>中学・高校における職業体験学習の強化、<2>アルバイトの積極的評価と社会の受け入れ体制の整備、<3>高校卒業認定試験の実施、<4>推薦入試枠の拡大・ボランティア経験や一芸などから人物をみるAO(アドミッション・オフィス=専門機関)入試など、大学入試の多様化を推進します。 7 高等教育の再構築 (1)リベラルアーツ教育(教養教育)の促進 学問の分化が進むからこそ、それを有機的に結びつける教養教育が重要となってきます。別な言葉でいうと、専門的知識に習熟することはもちろん重要ですが、それを知恵化することのできるバランスのとれた全体的人間が必要とされています。その全人教育・教養教育がリベラルアーツであり、これからの大学教育・高等教育の一つの重要な役割と考えます。生涯学習の体制を整えるためにも、リベラルアーツ教育の充実に努めます。 (2)学問単位・分野単位での大学間協力の促進 「学びたい時に学びたいものを学ぶ」といった視点が現在の大学制度において欠如していると思われます。学問への旺盛な探求心は常に変化し新たに生まれるものとの観点に立ち、学問単位・分野単位で大学の窓口を大きく開き、単位互換や大学連合など学ぶ側の希望に柔軟に対応できる大学間協力を促進するとともに、生涯教育、生涯学習促進の環境整備をはかります。 (3)高等教育における国際化の促進 グローバル化の大きな潮流は、教育の分野においても看過できない重要な課題です。日本の教育の質的向上をはかるためにも高等教育機関における留学生の相互受け入れを積極的に推進するための環境を整備します。 (4)大学・大学院の教育の多様化と研究の活性化 <1> 大学教員とその教育・研究内容の質的向上をはかるために、大学外の多様な機関との共同研究の推進、研究成果の社会への還元、教育・研究状況に対する国際的な評価制度の導入などを推進します。 <2> 先端科学技術、および基礎科学部門の研究機能を充実・強化するとともに、グローバルな情報ネットワークを拡充します。 <3> 学習と研究への意欲のある社会人への積極的支援をはかるため、夜間部、昼夜および休日開講制や夜間大学院の拡充や大学のコミュニティーカレッジ化などを推進します。また技術革新の進展や産業構造の変化を踏まえ、学習ニーズの高度化に応じた専門的・体系的な教育の充実をはかります。 <4> 社会人をはじめ多様な学生に開かれた大学・大学院にするため、労働や福祉行政との連携を強め、働きながら安心して学べる体制を構築します。 8 教育費負担軽減と私学振興策 (1)新たな奨学金制度を創設 日本育英会奨学金制度を抜本的に改革し、希望するすべての生徒・学生に奨学金を無利子で貸与できる新たな「教育奨学金制度」を創設します。 (2)私学の振興と就学者の負担軽減 私立学校法人が多様で特色のある小中学校を設置できるように設置基準などの規制を緩和します。ITなどの施設整備と保護者の負担軽減をはかるため、寄付金控除など税制の優遇措置を拡充し、私学助成を増額します。特に特色ある取り組みをしている学校に重点的に配分する仕組みをつくります。 9 青少年の健全育成策 少年による凶悪犯罪が大きく報道され、少年法改正問題も国民の幅広い各層から注目を集めました。青少年を社会の後継者として責任を持って健全に育成していくことは社会全体の中心的かつ深刻な課題であり、積極的に育成策を講じていく必要があります。そのため、次の施策を推進します。 <1> 「社会での実体験」を通して人間性を養うために、地域社会が主体となって自然体験活動や生活体験活動を実施できるように制度化します。地域の大人の協力の下に奉仕活動に限らず自然体験や職業体験、ボランティア活動の推進をはかります。 <2> 青少年育成に関して国・地方自治体・国民の責務を明らかにするとともに、例えば青少年施設の整備や相談員の配置など良好な育成環境を整備し、有害図書類の規制など健全な成長を阻害するおそれのある行為を防止することを目的とする「青少年健全育成基本法」(仮称)を制定します。 <3> 地域における青少年育成指導者は大半がボランティアであり、資格制度もほとんどないため、青少年育成地域リーダーの養成システム(資格制度・養成機関)を創設します。 10 文化・芸術の振興 <1> 文化・芸術活動に関わるボランティア団体、NPO法人、グループ、サークルなどへの支援や若手芸術家の育成等をはかります。また、青少年の文化・芸術鑑賞の機会を拡充します。 <2> 地域の民俗芸能、工芸品等の伝統文化や有形・無形文化財の保存等を推進します。 <3> 幼児から大人まで、さまざまな年代層の文化への参加と享受の機会を拡充し、文化基盤の整備や芸術活動への奨励援助を促進するため、「文化・芸術振興基本法」を制定します。 <4> 芸術活動を通じての海外交流を積極的に推進します。 11 生涯スポーツの振興 <1> 健康で豊かな生涯スポーツの振興をはかるために、登録制度の創設などで指導者の待遇改善をはかるとともに、スポーツ施設への適切な配置を推進します。 <2> スポーツ活動を通じての海外交流を積極的に推進します。 |
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