この膨大な借金は、88年の閣議決定で、「最終的に国において処理する」とされている。つまり、土地などの売却収入を差し引いた後の借金については、国民が負うことになっている。その土地処分の期限は、89年の閣議で「96年度までに終了する」と決められており、「新たな財源措置」を決めることが目前に追っている。分割・民営化された時点での国鉄債務37兆1000億円のうち、民営化されたJRが背負った分を除く25兆5000億円を清算事業団が引き継いだわけだが、この9年間で、債務総額は減るどころか、逆に2兆1000億円も膨らんでしまった。
借金返済の主力である土地の処分については、土地市況の悪化から、約9000千ヘクタールの用地のうち約3500へクタールがなお売れ残っており、資産価値も地価下落の影響で既に4兆円を切っているといわれている。株式も、バブル経済崩壊による市場の低迷で、JR東日本株がようやく上場したのが93年のこと。JR西日本株については二年連続して見送られ、売却が思うように進んでいない。
仮に、97年度に土地や株式がすべて売却できたとしても、「20兆円以上の債務が残るのは確実」(運輸省)だ。これがそのまま国民負担になるとすると、一人当たり約16万7000円となり、政府が住宅金融専門会社(住専)の処理に税金投入しようとしている5500円の国民負担と比べて約30倍、二けたも違う。
清算事業団の債務残高が膨らんだのは、旧国鉄の借入金利の支払いに、土地や株式の資産売却収入が追い付かないためだ。年間約1兆3000億円に上る財政投融資金や民間金融機関の金利負担に対し、主な債務償却の資金となる土地売却収入が常に年間9000億円余以下にとどまったため、利子が売却収入を上回っており、借金が雪だるま式に膨らんでいるのだ。
つまり、債務膨張の最大の要因は、地価頼みの返済計画の甘さにある。土地を売って債務を圧縮するという当初の青写真は、柱専の再建計画と同機に、92年以降には地価下落で既に破たんしていた。にもかかわらず、債務返済計画の再検討を怠り、「問題を常に先送りしてきた政策の『失敗』に根さしている」(4・2付産経新聞)といえる。
だが、これ以上の先送りは国民負担をますます重くしてしまう。今のところ、処理策として浮上しているのは、償還財源の裏付けがない赤字国債の発行をはじめ、消費税アップ分からの充当や「新幹線利用税」の新設といった増税論などだが、いずれも国民が負担することに変わりはない。さらに、業績好調なJR東日本などJR本州三社に一部負担を求める案も検討されているが、三社も「悪代官がひどい年貢を納めさせるようなもので、許されない」(井手正敬・JR西日本社長)と猛反発しており、難航は必至だ。
このように、『待ったなし』の状況にもかかわらず、政府はいまだに処理策の本格論議を避けている。一刻も早く、「国鉄民営化当時の運輸大臣だった橋本首相は、特に責任を意識」(4・2付読売新聞)して、明確な処方せんを国民の前に示す必要がある。
実は、こうした表面化していない国の赤字が、旧国鉄債務以外にも約16兆円もあるのだ。いわゆる「隠れ借金」である。
隠れ借金は、本来、一般会計で払うべきところを、厚生年金などの特別会計から資金を借り、特例的に支出を先送りしたりする会計上のやり繰りを指す。大蔵省は、こうした小手先の帳じり合わせで、見かけ上の歳出を減らす「粉飾予算」を組み、「財政危機」を先送りしてきたのだ。
その結果、表面化している国債残高だけでも241兆円(96年度末)に達する見通しだが、「隠れ借金」も合わせた国民の借金は278兆円の巨額に達し、国民一人当たり220万円にも上る途方もない事態を迎えている。
ついに、「隠れ借金」も隠しようがなくなり、自社さ連立政権下で武村前蔵相は「財政危機」を宣言したが、赤字国債の大量発行を安易に決めておきながら敵前逃亡し、肝心の財政再建の展望は一向に示されていない。住専処理への税金投入問題も含め、「借金財政」への流れを一気に加速させた政府・与党の「ツケ回し」体質に、国民の不信は高まる一方だ。