第2部
九 日本農業の再生と食料自給率の向上につとめます
わが国の農業政策は、国内における食料自給率の向上と国際間の貿易自由化の狭間で、明確な路線を示し得ない状態にあります。
食料自給率はカロリーベースで40%と先進国中で最低水準にあり、人口が1億人を超える大国であるだけに、食料安全保障の上から重大な関心が寄せられています。このまま放置すれば、今後さらに自給率は低下するものと予測されています。
一方において、貿易の自由化が進み、とりわけWTO農業交渉では「加盟国は、根本的改革をもたらすように助成及び保護を実質的かつ斬新的に削減する」との目標を掲げ、一層の自由化を進めようとしています。わが国は先進国の一員として、WTOの発展をはかる立場にあり、今後どのような基準で世界を取り仕切るか重大な責任があります。
わが国は、この二つのことを念頭に置きながら、農業政策の立案を進めなければなりません。
1 国際機関(WTO)における日本の主張
わが国はWTOの議論において、「農業の有する多面的機能」すなわち農業が生産活動に伴って農作物以外の種々の有形・無形の価値をつくり出す経済活動であることを表明しています。
具体的には、<1>環境保全(国土の保全、水源の涵養、自然環境の保全、良好な景観の形成)、<2>地域社会の維持活性化(文化の伝承、保健休養、地域社会の維持活性化)、<3>食料安全保障、の三点に整理しています。
このなかでもっとも主張すべきは食料安全保障であります。それぞれの国には固有の食文化があり、健康とも密接に結びついています。その国独自の栽培方法もあり、それぞれの国が一定の食料自給率を確保することは食料安全保障として当然のことであります。わが国はWTO農業協定の議論において、「各国の食料自給率の確保」をより積極的に主張すべきであり、他の国の賛同を得るよう最大の努力をする必要があります。
この主張がなければ、国内における食料自給率45%の実現を柱とした政策との整合性を欠くことになります。
農産物輸出国からは、農作物の貿易自由化こそ食料安全保障にもっとも役立つもの、との主張がありますが、それは一定の食料自給率を確保した上での論議として妥当性があると考えます。
2 国内政策の柱は自給率45%の達成
(1)自給力100%を超えているコメ対策
稲作における生産性の向上と国民一人当たりコメ消費量の減少により、自給力は100%を超え、したがって減反政策が実施されています。その広さは総水田面積の3分の1に及び、生産者米価の激変緩和のためにも、止むを得ない措置であります。今後は稲作に替わる転作により積極的に対応する必要があります。WTOにおいては、助成及び保護の削減を掲げていますが、国内での生産調整は当然の政策であり、転作農家への支援を積極的に進めます。
(2)食料自給率の低い農業生産物に対する対策
食用に仕向けられる穀物の他に、飼料用穀物を含む穀物自給率は27%であり、コメ以外の穀物は著しく低下しており、小麦9%、大豆3%などはその代表例であり、牛肉自給率も35%に止まっています。コメ減反による転作を積極的に進め、輸入比率の高い小麦、大豆、飼料作物の本格的な生産を行うため、生産農家への助成策を検討し大幅に拡大をはかります。
(3)農業基盤整備から農家対策へ
年間3兆4000億円を超える農水省予算の50%は農業基盤整備など公共事業に使用されていますが、そろそろ基盤整備は逓減し、農家そのものへの支援策に切りかえるべき時を迎えております。狭い農業面積のなかで労働賃金の高い日本農業の生きる道は、国を挙げて農業従事者を支える以外にありません。食料安全保障のために食料自給率を向上させるためには、国民全体が応分の負担を覚悟しなければなりません。また、WTOの主張とどのように整合性を持たせるか、またWTOのなかでどのように主張をしていくのか、重大な決断の時期を迎えております。
私たちは、開発途上国の農業を発展させるとともに、先進国の農業もまた育成する方途を模索しなければなりません。
3 農業の持続的発展のための条件整備
(1)多様な担い手の形成
<1> 農業就業者人口の減少・高齢化に対処するため、家族農業の推進とともに集落営農の推進、農業生産法人の拡大、農作業専門法人・耕作管理法人の設立・育成等を進め、多様な担い手の形成をはかります。
<2> 新規就農に関するPRや相談、実習等の強化、新規就農者に対する就農支援資金制度の抜本的拡充をはかる等、新規就農に全力を上げます。
(2)農地の確保と有効利用
<1> 減少を続けている農地を確保し、有効利用をはかるため、ほ場の整備促進、認定農業者や農業生産法人への農地の集約化、第三セクター等による農作業受託・管理耕作等を進め、地域の実情に応じたきめ細かな農地確保策を推進します。
<2> 農業生産に不可欠な農業用水の汚染防止をはかるため、生活廃水や工場廃水の規制強化、河川、湖沼の汚染防止をはかります。
(3)所得対策の充実
<1> 天候や市場価格に大きく左右される農家所得の安定をはかるため、農家所得を全体としてカバーする所得補償制度の導入を検討します。
<2> 農作物の無制限な輸入は、農家経営を圧迫し、再生産を困難にするおそれが強いため、WTO農業協定で認められている緊急輸入制限措置(セーフ・ガード)を適時発動します。
<3> 農機具や肥料等の価格の安定をはかるため、公正取引委員会による価格監視を強化するとともに、融資制度の充実、共同購入の推進、リース制の普及等を進めます。
<4> 環境と調和した農業を推進するため、有機栽培、減農薬・減化学肥料栽培等を促進するとともに、環境にやさしい栽培技術等の開発を進めます。このため税制や金融による支援策を充実します。
(4)農業・農村のIT化を推進
都市部に比べて情報化の遅れている農村部において、市況情報、営業情報を迅速に伝え、農業経営や生活の利便性向上に活かしていくための情報拠点等を整備します。また、農山村におけるIT普及をはかるための研修体制を強化します。
(5)食品の安全性の確保、表示の充実
農産物など食料の安全性を確保するため、生産者・加工業者に対する指導・注意を徹底し、輸出国に対しても安全性確保を求めます。また、食品の表示や規格の充実を推進します。
4 生活基盤の整備や女性の役割重視による農村の振興
(1)農村の基盤整備の促進
<1> 集落内の道路、上下水道、文化・医療・福祉施設等の生活基盤の整備促進、農業とタイアップした農産加工業の振興、農村地域に適した工業の誘致等による住みよい農村をめざします。
<2> 農村女性が農作業や家事、育児等に果たしている重要な役割を踏まえ、ヘルパー制度の充実などによる重労働の解消や「家族経営協定」の締結など農家経営における女性の参画推進、農協や農業委員会役員への登用を進めます。
(2)山間地域等の活性化
<1> 中山間地域の農業が、国土・自然環境保全等の多面的・公益的機能を発揮していることを評価するとともに、生産条件の不利を補正するため、今年度から導入した直接支払制度の拡充をはかります。
<2> 中山間地域の特質を活かしたグリーン・ツーリズム(都市住民による山村等における滞在型余暇活動)等の活発化をはかり都市と農山村の交流を盛んにします。
<3> 深刻化しているサル等の鳥獣被害を防止するため、安価で設置が容易でかつ防止効果が高い防護棚等の開発を進めます。防護棚の設置に当たっては助成を拡大します。
(3)農業サミットの開催
担い手不足等のわが国農業が抱えている深刻な課題を克服し21世紀の農業が明るい明るい展望を持てるようにするためには、国・自治体が直接農業に携わっている農業者から意見を聞き、それを政策に活かしていく仕組みが必要です。そのために、毎年、国がブロック別に農業従事者の声を直接聞く「農業サミット」を開催します。
5 農協改革の推進
単協の合理化・統合化を進め農協の強化をはかるとともに「組合員のための農協」という原点に立ち、営農指導の強化を推進します。また。農業者自らの判断で農協を選択できるよう組合加入の弾力化をはかります。
6 環境保全機能等を重視する森林経営の推進
(1)新たな「林業基本法」の制定
産業としての林業の振興をはかることを目的に昭和36年に制定された林業基本法は、木材価格の低迷等により行き詰まり、時代のニーズに合わなくなっております。このため、林業政策の基本を森林の持つ多様な機能を発揮させるための森林管理・経営へ転換する観点から新たな林業基本法の制定を推進します。
(2)林業の担い手の確保
森林の多様な機能を発揮させるためには、意欲のある担い手の確保・育成が不可欠です。このため、核となる林家・森林組合等へ経営や施業の集約化を進め経営の強化をはかります。また、森林整備の重要性にかんがみ、公的セクターや第三セクターによる管理・施業を拡大します。
(3)林業の新規就業者の確保
都市の林業従事希望者に対する積極的な情報提供、林業就業者の育成・定着をはかるための就業前の研修等を実施し、就業を促進します。また、新規就業者の確保・育成に要する林家や森林組合の負担を軽減するため公的支援を強化します。
(4)木材利用の推進
木材利用の促進をはかるため、公的部門における木材利用の推進、木材の加工・流通の合理化等を進めるとともに、住宅建築への国産材の利用促進をはかるため、乾燥材の供給体制の整備など品質・性能の安定策を強化します。
7 新時代に対応した漁業の振興
(1) 「漁業基本法」の制定
21世紀に対応した、わが国水産業を確立するため、つくり育てる漁業の確立など総合的な観点に立った「漁業基本法」の制定を推進します。
(2)中期的な資源管理
国民に対して安定的に安全な魚介類を提供するには、まず資源管理が重要です。そのため、適正な漁獲量を科学的に分析し、決定する必要があります。また、近隣諸国との実効ある漁業協定を進めながら資源管理に対する国の支援をはかります。調査捕鯨については拡大、継続をはかります。
(3) 担い手の確保と経営支援
漁業においては、担い手の確保は難しくなっています。漁業管理が強化されるなかで、経営安定の検討が急務です。設備資金の低利貸付や負債の低利借り換えなども実施します。
(4) 経営安定対策と所得確保
魚介類価格の乱高下により、意欲ある担い手の経営に重大な影響を与えないように、価格低落時の経営への影響を緩和するための所得確保対策を講じます。主な品種別の経営安定措置についても検討を急ぎます。
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