一九九六年の通常国会が、選択的夫婦別姓制度の導入や婚外子の相続分差別の
撤廃を盛り込んだ民法改正案を上程しないまま、ついに本日、閉会の日を
迎えてしまいました。
選択的夫婦別姓の導入を実現し、婚外子差別を撤廃するために、私たちは
十年以上前から全国各地で会をつくり活動を行なってきました。
また、現実には、通称使用や事実婚の形で夫婦別姓を実行している人々や、
婚外子としてあるいは婚外子を産んだことでいわれのない差別や偏見に
さらされている人々、民法が改正されるまではと結婚をしないで待っている
人々が数多く存在し、いまも増え続けています。
民法改正は、このように多くの国民が、長い間、真剣に待ち望んできた
課題なのです。
さらに、この法案については、法務大臣の諮問機関である法制審議会が五年間
審議し、その過程では、「中間報告」や「試案」が国民に向けて公表されて
います。一昨年の夏に「試案」が出された際には、裁判所や弁護士会、
各種女性団体などへの意見照会はもちろん、「家族法ホットライン」を
設けて一般からの意見をFAXにより幅広く募集するなど、画期的な
試みも行なわれました。マスコミにも何度も報道されました。その結果、
選択的夫婦別姓の導入や婚外子差別の撤廃は、まもなく実現することがら
として、広く国民の意識の中に定着してきていたのです。
とくに、これから結婚する人の多い年代(二十代・三十代)では、各種世論調査
でも選択的夫婦別姓に賛成する人が反対する人の割合を上回り、職場など
でも近年は、別姓という選択肢ができることを前提にして、結婚についての
話題が交わされるようになっていました。
一方、婚外子差別は、「国際人権規約B規約」に明らかに違反するもの
として国連から日本政府が撤廃勧告を受けるなど、早急に改善しなければ
ならない課題として強く意識されるようになっていました。
それにもかかわらず、今国会への民法改正案の上程は、一部の国会議員らの
強固な反対により、自民党内での調整がつかないまま見送られてしまい
ました。選択的夫婦別姓制度の導入や婚外子の相続分差別の撤廃は、国会の
場で審議されつこともないまま、門前払いにされたのです。
選択的夫婦別姓の導入や婚外子の相続分差別の撤廃に反対する人々は、
民法の改正が日本の伝統的な家族を壊し、社会秩序を崩壊させると主張して
います。そして、一九九五年の国際家族年の際にただひとつの理想的な
家族を追求しないようにと宣言されたにも関わらず、今回の民法改正案を
拒否することで、この人たちにとっての理想の家族像に、全ての国民を
当てはめようとしています。
しかし、選択的夫婦別姓の導入も婚外子差別の撤廃も、「男女平等の推進」
「人権の尊重」「自由や多様性の尊重」といった民主主義の理念が社会に
浸透し、女性の社会進出や少子化・高齢化が進む中で、その必要性と必然性
が明確になってきた問題です。
結婚改姓するのが九八%女性の側である現状のもとで結婚するために
自分の姓を捨てざるを得ない女性たちや、婚外子として生まれた子どもたち
にとっては、まさに「人権の問題」であり、家のため家族のためにと
軽んじたり、先送りにしていいことではありません。
今回、国民生活に深く関係するがゆえに衆目を集めてきた民法改姓案が、
国民に見える形で審議されることもなく、密室の中で議論され、見送られて
しまったのは、たいへん残念なことです。別姓結婚を望む人などの当時者ばかり
でなく、自分自身は同姓結婚を選ぶけれど、「個人の自由を尊重すべき」
だから選択的夫婦別姓の導入に賛成だと世論調査に答えた人々や、
日本の法律が子どもを差別する規定を持っていることに恥ずかしさを
覚えている多くの人々にとっても、民主主義の否定ともとれる、全く納得の
いかない結果です。
私たちは、こうした事態になってしまったことに大きな憤りを感じています。
しかし、今回法案上程が見送られても、社会の変化そのものを止めることは
できません。
また、別姓にするため結婚を待っているカップルや、婚外子とその親、
通称使用などで苦労している人々など当時者にとっては、もうこれ以上待てない
本当に切実な問題です。
「今すぐほしい選択的夫婦別姓、もう待てない婚外子差別撤廃」。
私たちは、国会議員の方々の理解を求め、次期国会での民法改正案の上程と、
より充実した内容での成立を目標に、今後も活動を続けます。
一九九六年六月一九日
すすめよう! 民法改正ネットワーク
●賛同団体